代表リレーはクラス内で選ばれた女子2人、男子2人がそれぞれ100メートルずつ走る4×100メートルリレー対決だ。
A組は三奈ちゃん、轟くん、梅雨ちゃん、かっちゃんの順に走る。推薦で選ばれたメンバーだ。
後半競技から各クラスの総合点数は隠されてしまい、自分たちが現在何位なのかも点差もわからない
それでもみんな上位であることは確信していた。だからこの代表リレーで1位を取れば優勝できる。
そんな期待を胸に全員で下に向かう4人を送り出した
「ありがとうヤオモモちゃん。用事が済んだらすぐ追いかけるから、先に前の方行ってて」
人に頼ってもらえるようになりたいならこれは見過ごせない。
「上鳴くん、大丈夫?さっきから元気ないよね…?」
「そうだね、惜しかった。でも私たち凄く頑張ったよ、上鳴くんもマジで頑張った」
「覚えてるよ、凄く真剣な顔してたもん。しかも…」
「い、いや!なんでもない!大丈夫なら良かった、早くリレー見に行かないと終わっちゃう!行こう!」
「危ない、かっちゃんには間に合った」
梅雨ちゃんは2位で1位の少し後ろを追いかけるように走っていた。そして後ろからは2、3 人が集団で追いかけてきていた
切島くんが手すりに身を乗り出しながら応援している
梅雨ちゃんが走る先にはかっちゃんが立っている
ただじっと梅雨ちゃんを見てその時を待っている感じで。
1位を見送った後、梅雨ちゃんが来てかっちゃんにバトンが渡される
頭に巻いた赤いハチマキがパタパタと激しく動き出す
かっちゃんはグングン1位との距離を詰めた
みんなの応援にも熱が入る
そしてカーブで追い抜くと今度はどんどんその距離が離れていった
最後の直線、三奈ちゃんたちに迎えられながらかっちゃんは1位でゴールした
私たちはその場で喜び、互いに手を合わせる
見ているこちら側が疾走感を感じる素敵な走りだった
閉会式終了後、私たちは帰る片付けをしていた
すると突然女の子たちの間で何が食べたいかを言いあう時間が始まった
お茶子ちゃんの声にびっくりして振り返ると上鳴くんも驚いていた
私の後ろで何が起きていたの…
「勉強…?」
上鳴くんは必死に勉強を教えて欲しいとお願いするが、私には全く意味が通じない。次第に周りの男の子たちもこちらに注目し始めた
同じやりとりに疲れたのか、上鳴くんが突然大きな声で喋り出す
「あっ、わわ、わかった!片付け終えて解散したら下行くね」
この時、逃げるように去っていく上鳴くんを他の生徒も、先生も、お客さんも、誰もが見ていた。
私も見慣れない彼に動揺した
それは彼の顔が信じられないくらい真っ赤に染まっていたから
彼の今まで見たことがない様子にみんな驚きを隠せなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!