「あれ、かっちゃん待ってたの?先に帰ってていいのに...」
というかなんで今日は待っていたんだろう...?
いつもなら普通に聞けることがかっちゃんと出久くんの間に走る緊張感でできない
その場にいる誰もが声出せずにいるとかっちゃんは出久くんに睨みを効かせたあと私の腕と荷物をしっかり掴んで歩き出した
「...連絡する!!」
咄嗟に思いついた言葉を発した後、少ししてからみんなの声が聞こえてきた
正直、別れの挨拶のような流れで場の空気が沈んでいくのを感じていた
そんなときに良くも悪くも空気を掻き乱してくれたかっちゃん
別れはあっさりだったけどしんみりしなくて良かったとも思う
あんな状況になっていなかったら“連絡する”なんて自分からは言えなかった気がする
悲しい気持ちもあるけれど
また救われちゃったな...
音は廊下からの他の生徒の声だけで私たち2人は無言でただ降りている目の前の階段を見ていた
去年の11月頃に毎月の食事会が無くなってかっちゃんとはだいぶ話していなかったからこの状況は少し緊張する
かっちゃんを覗いてみると平然としていた
でも以前と違って真剣で大人の表情をしている気がする...
「今日、クソババアが家に来いって」
「あ~!卒業のお祝いするんだよね、お母さんから聞いてた
勝さんも参加出来るんでしょ?今日の夜ご飯は賑やかになるね」
「興味ねぇ」
いつも親から事前に教えられていてお互い話すことはなかったのにわざわざ話題に出した理由は
なんだろう
私はこの時それがかっちゃんなりの気遣いだったことに気がつかなかった
下駄箱にたどり着くと自然と腕は解放された
靴を履き替えると自分の身がいつもより軽くことに気づく
「あ!鞄持たせたままだった!ありがとう!」
私は両手を広げ鞄を受け取ろうとする
しかし戻ってくる様子はない
返ってくるのはかっちゃんからの視線
それは互いにもう必要なものを求め合う目ではなくなっていた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!