あの日の放課後から、美咲は学校に来なくなった。
最初の数日は、クラスも少しざわついていた。
そんな声が、教室のあちこちから聞こえてくる。
人って慣れるのが早い。
一週間もすると、美咲のいない空気が“普通”になっていた。
空っぽの席だけが、変に目につく。
私はそれを見ないふりをしながら、窓の外を見ていた。
グラウンドでは運動部が走っている。
いつも通りの景色。
仁人は何も聞かなかった。
ただ、空席を見る時だけ少し静かな顔をしていた。
勇斗も、変に話題には出さない。
でも時々、「美咲ちゃん元気かな」と小さく呟いていた。
二週間後。
ホームルームの終わり。
担任が静かに口を開く。
教室がざわつく。
でも担任や先生達は詳しく話さなかった。
“向こうでも頑張ってほしい”
それだけだった。
私は何も言えなかった。
転校。
その言葉が、思ったより重かった。
放課後。
今日は珍しく、一人で帰っていた。
仁人は仕事。
勇斗は部活の助っ人。
いろはと咲希は部活。
夕方の風が制服を揺らす。
空は薄いオレンジ色で、街全体が少しだけ静かに見えた。
私はぼんやり歩きながら、あの日のことを思い出していた。
男の腕を掴んでいた仁人。
静かな声。
怪我してまで助けてくれた手。
……好き。
いやほんとに。
なんであんな顔良い上に優しいんだろ。
しかも本人無自覚なのが一番タチ悪い。
仁人は天使だから。
きっと誰にでも優しいだけ。
そう思わないと、期待しそうになるから。
声がして、足を止める。
振り返る。
そこに、美咲が立っていた。
制服姿。
でも前より少し痩せた気がした。
髪も少し乱れていて、目の下には薄く隈がある。
それでも。
前みたいな鋭さは、少しだけ消えていた。
美咲は私を見ると、少しだけ視線を逸らした。
沈黙が落ちる。
気まずい。
でも、逃げたい感じじゃなかった。
ただ、お互い何を言えばいいのか分からないだけ。
風が吹く。
長い髪が揺れる。
勇斗の言ってた場所だ。
胸の奥が少しだけ軽くなる。
その瞬間。
美咲の目が少し揺れた。
美咲は俯いたまま、小さく笑う。
でもその笑い方は、自嘲みたいだった。
夕陽が、美咲の横顔を赤く染める。
声が少しずつ震えていく。
私は何も言えなかった。
少しの沈黙。
それから、美咲はぽつりと呟いた。
美咲は少しだけ眉を寄せる。
心臓が跳ねる。
夕陽が眩しくて、上手く表情が見えない。
胸の奥がざわつく。
でも。
次の言葉で、そのざわつきが変わった。
違う
あの人は天使だから。
守らないといけない対象だから。
息が止まりそうになる。
その声は、怒ってるというより。
寂しそうだった。
胸が熱くなる。
そんなこと、考えたことなかった。
でも。
いや、違う。
違う違う。
仁人は天使だから。
誰にでも優しいし。
特別とかじゃなくて。
……多分。
即答だった。
顔が熱い。
心臓もうるさい。
意味分かんない。
でも。
その瞬間、初めて頭に浮かんだ。
──告白。
もし。
もし本当に、少しでも特別なら。
言ったら、どうなるんだろう。
心読まれた????
その言葉に少し笑ってしまう。
……分かる。
めちゃくちゃ分かる。
人間っぽくないんだよな、あの天使。
まぁ、天使だし。
美咲が私を見る。
その言葉だけが、胸に残った。
少しの沈黙。
それから。
美咲が少し笑う。
前みたいな、人を馬鹿にする笑い方じゃなくて。
年相応の、普通の女の子みたいな笑顔だった。
美咲の目が少し揺れる。
少しの沈黙。
それから。
小さく頷いたその顔は、前までの鋭さなんてどこにもなくて、ただの年相応の女の子だった。
その瞬間、今まで自分が見ていたものが全部ずれていた気がした。
冷たいとか、強いとか、そういう言葉で勝手に形を作っていただけで、本当はそんな大層なものじゃない。
ただ、壊れてしまわないように必死に笑ってるだけの子ども。
大人の都合に合わせて、空気を読んで、何もなかったみたいに振る舞うしかなかっただけ。
それに気づいた途端、胸の奥がじわっと熱くなる。
どうしてこんな小さな子が、こんなことを覚えなきゃいけないんだよって、理不尽さだけが残る。
普通に笑っていいはずの年齢を、無理やり“気を遣える子”に変えてしまう大人がいる。
その現実が、やけに静かに腹に落ちて、息が詰まる。
14話ありがとうございます!
美咲ちゃんは親の元を離れる決意をしました!
すごく悩んだでしょうね……!
♡と☆とコメント待ってます!
今日は咲希ちゃん↓↓↓

1番目がでかいです!
癖っ毛のボブ。
真面目な女の子。
1番モテます。
男ウケ抜群のタレ目、守りたくなるような顔。
最近は彼氏ができたとの事!!
いろはに裏切り者!!と追いLINEが来ました。
自由ないらはと、しっかり者な咲希の相性は抜群です!!












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。