あれから数日後。
何事もなかったように過ごしている。
───沖田様は、何も、悪くない。
きっと、私より愛せる人が出来たのだろう。
私なんて、取り柄もないし、美人でもなんでもない。
沖田様と恋仲になれたのだって、奇跡的だったのだ。
私より魅力的な方はたくさんいる。
私が沖田様の迷惑になるわけにはいかない。
いつまでもめそめそしてる場合じゃないし、
沖田様には幸せになって欲しい。
私が、沖田様の足枷となって、沖田様が苦しむなんて状態にならせては、いけないのだ。
沖田様は悪くないのだから。
私がこの心をどうにかすればいい話なのだから。
そんな事を考えていると、いつのまにか洗濯物を干し終わっていた。
そして次の仕事に取り掛かろうと思った時。
ドンッ
また誰かにぶつかってしまった。
「あ…すみません…」
最近、人にぶつかることが多い。
あの日から、心がぽっかりあいたようなかんじがしてて。
気を緩めたら、泣きそうになってしまうから考えないようにしてるんだけど…。
また考えてしまっていた。
駄目だ、こんなんじゃ。
駄目だ、気をつけなきゃ。
駄目だ、この心は。
「おう、ごめんな。嬢ちゃんは大丈夫だったか?」
ぶつかった相手は、永倉新八様。
たしか…二番組の組長だったような。
「はい…本当にすみませんでした」
そう言って次の場所へ行こうとすると。
「あ、ちょっと待ってくれ嬢ちゃん」
「…はい…、?」
「顔色悪いけど…大丈夫か??」
心配そうな顔をして私の方を窺う永倉様。
「だ、大丈夫です。申し訳ありません」
そんな悪そうに見えたかな…心配かけてしまって申し訳ないな…。
「んー…よし、嬢ちゃん。着いてこい!!」
「え!?」
永倉様はそんな私を見かねてか、私の手を引っ張りどこかへ連れていく。
「な、永倉様……!」
次のお仕事があるのに…!
永倉様、どこへ…!!
┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈
「ここは…」
私が連れてこられたのは、近くの甘味屋さん。
「あの、なんで私なんかを…?」
「よーしっ、そこの嬢ちゃん!団子ふたつと葛餅と…」
その甘味屋に入るやいなや、私の言葉も聞かず、永倉様は注文を始める。
「え、っと…?」
「嬢ちゃん!たーんと食えよ!」
え…
結構注文してたけどそれを私が食べる…?
「え!そんな悪いですよ永倉様!」
「いーんだよ!いつものお礼だ!」
「た、食べきれませんし!」
「俺も手伝ってやるから!」
2人でそんな言い合いをしていると、たくさんの甘味が早速はこばれてきた。
「うー…」
持ってこられたら食べないわけにはいかないし、折角永倉様がこうして気を使ってくれている。
「永倉様…ありがとう、ございます。いただきます。」
「おう!」
はこばれてきたばかりのお団子をひとつ口に含む。
…美味しい。
でも、永倉様にこんなことをさせてしまって申し訳ない。
きっと、私と沖田様のことを知ってだろう。
…気を使わせてしまった。
どうしよう。やはり私は迷惑になっている。
私のせいだ。
私が暗い空気を出していたから。
「永倉様、ありがとうございます!元気になりました!」
「…?嬢ちゃん?」
「気を使わせてしまって申し訳ありません。もう大丈夫です!」
だから、もう大丈夫だって、元気だって、
暗い空気を出さないようにしないと。
永倉様や、他の方々に、迷惑がかかってしまうから。
こんな小娘の私事で、お手を煩わせるわけにはいかない。
「あなたちゃん。」
すると、後ろから声が聞こえた。
「原田、様…?」
原田左之助様。10番組の組長だ。
「無理すんなって。」
優しい声。
優しい言葉。
泣きそうになる。
でも。
「原田、様…永倉様…申し訳ありません…」
涙は我慢しよう。
「あなたは、もう大丈夫です!
ありがとうございます!」
だって、泣いてしまったら、
沖田様が悪いってなってしまうかもしれない。
それは嫌だ。
後ろを見ると、原田様の他に、藤堂様など、幹部隊士の方がいた。
(…なんでこんなすごい方々に、ただの女中のわたしなんか…)
「申し訳ありません、私なんかが…」
「その“私なんか”っていう卑下は、なんだ?」
「…え?」
「なんで私なんか、って言うんだ?」
永倉さんの真剣な瞳。
そんなの、永倉さんたちがすごいからに決まってる。
「新撰組の方々はすごいですし…
私なんか何も出来なくて、迷惑もかけてしまって…」
「嬢ちゃんだってじゅうぶんすげぇよ。文句言わずにテキパキ仕事して、表情になんも出さねぇで心配かけないようにって。」
「…ありがとうございます。
でも、もう大丈夫です。
本当に、ありがとうございます。」
私は、笑顔を浮かべてそう言った。
みんなでワイワイしながら甘味を食べて。
それから部屋に戻った。
思い出すのは、あの時のこと。
『あなたさん、僕達、終わりにしよう』
それに言葉を返せなくて。
私の部屋から出ていった沖田様の背中をただ見つめることしか出来なかった。
そのあと。
廊下を歩いていると、
副長である土方様の部屋から、沖田様との話し声がきこえた。
「…総司」
「ぼくのせいで、あの子が敵から狙われてしまうかもしれない。どうしても、僕は早く死んでしまう。
それで悲しませるよりかは、いいかと。」
「好きだったんだろ」
「…いいえ」
思わず立ちすくむ。
と、土方様の部屋から沖田様が出てきた。
「…あれ、聞いてた?まぁそういう事だから。僕ひどい人なの。わかった?」
口で酷いことを言いながら。
顔は、泣きそうに歪んでいたのは。
どうしてなの?沖田様。
「僕、もう、」
言葉が止まった。
どうしてそうやって泣きそうな笑顔を浮かべるの?
「すぐ死んじゃうし、じゃあ」
さよなら。
そう言って去っていった。
沖田様。
『すぐ死んじゃうし』
労咳だから?
別れたのも、労咳だから、私にうつらないように、悲しませないように、そうしたのですか。
…沖田様。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。