第2話

A
320
2018/11/12 12:45
江戸時代。幕末。
彼と私が、生きた時代。







私が貴方と出会ったのは、京都三条木屋町の旅館『池田屋』事件が起こる、少し前のこと。




「やめて…くださいっ」
お使いの帰り。

『あっ…すみません…!』
『ってぇなァ。何してくれてんだよぉ、嬢ちゃん』
浪士にぶつかってしまったことから始まった。


「大人しくしてろよ、いいことしてやるから」
「痛いっ…やめて、くださ…」
お酒に酔った浪士に絡まれていた私を助けてくれたのは。

「その汚らわしい手を離してください?」
町娘の私でも分かる。異様な殺気を放つ貴方。
「んだァ?てめぇ。やんのか!?」
浪士は殺気に気付かないほど、酔っているようで。
大声をあげて貴方を睨んでいた。

そんな浪士を、呆れたように見る貴方。

「沖田総司…の名は、ご存知ありませんかね」
『沖田総司』
小耳に挟んだことはある。
京都見廻組の方達が話していたような…

そんなことを考えていると、腕を掴んでいた浪士の手の力は弱まっていき。

『沖田総司』という名を聞いた浪士は、顔を青ざめさせて逃げていった。

「助けていただき、ありがとうございます。…あれ…?貴方様は…」
怖くて目を閉じていたから分からなかったが、沖田総司様は…
「はい。貴方のお店によく行きますね」
私が働いているお店を贔屓にしていただいているお方だ。

ニコリと笑った貴方は、「気をつけてくださいね」と私の頭を撫でて去っていった。



そこから私は前より沖田様と親しくなり。
胸に疼いていたこと想いはなんなのかを知って、ついに言うことにした。

「沖田様。私は貴方を…お慕いしています」

沖田様は驚いたような顔をして、それから言った。
「僕は…いつ死ぬかわからない」

そうなのだ。
沖田様は新撰組に所属している。だから、斬り合いもある。命のやりとりをしているのだ。

覚悟が、あるのか。
私に、命をやりとりする者を愛するという、覚悟が。

答えは、とっくにもう出ていた。

「沖田様、分かっております。ただの町娘の私が命のやりとりを分かりきっているなんてことはありません。ですが…貴方しか、愛せないのです。」

「…女の子にばっか言わせてたらかっこ悪いね。…あなたさん。大好きだよ」











私と沖田様は恋仲になり。
かの有名な『池田屋事件』が起こってから数ヶ月。

沖田様はお忙しいから、恋仲らしいことはあまりできなかった。でも、お暇があれば私に会いに来てくれる貴方様がいれば、それで満足だった。
でもやっぱり、会いたい。もっと。

そう考えた私は、ある事を思いついた。





「女中のあなたです。よろしくお願いします」
新撰組の屯所の、女中になる事にした。
女中になることを沖田様には言っていなかった。
沖田様の驚いた顔は、今でも忘れられない。





そして夜。みんなが寝静まった頃。
「びっくりしたよ、なんで言ってくれなかったの?」
ちょっとムスッとしながら言った沖田様は可愛くて。

沖田様の部屋の中だからいいかな、なんて思って、気がついたら頬に接吻をしていた。

「あなたさん…!」
「あっ!私なんてはしたないことを…!申し訳ありません…!」
「…止めらんなくなる。」
沖田様の声のトーンが急に低くなって。
そのまま押し倒された。
「沖田様…!」
「…駄目だ…ねむい。」
「…え?」
そして沖田様は眠ってしまった。










「沖田様、離してください…?」
朝。沖田様の部屋にいることを知られてはならないから朝早くに出ていかなければならないのだけれど。
沖田様が離してくれない…!
「沖田様…!」
「うるさいっ!」
(うー…)
半刻(1時間)ほど離してもらえなかった…。



そんなほのぼのした、ある日の事だった。






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