あの日から数日後。
私は今日も余念なく。
境内を竹ぼうきではいていた。
すると、沖田様がとおった。
ので、呼び止めると。
「沖田様!」
「あなたさん。こんにちは」
「こんにちは、体調はいかがですか?」
私は普通に聞いた…つもりだった、が。
「こんにちは。…体調?どうして?」
と、困惑したような表情を向けられた。
あーーっ!
沖田様は、私が沖田様は労咳にかかっていると知っていることを知らないのだった!
うぅぅぅ、やってしまったー。
「いやっ、え、えっと、この頃咳をしていらっしゃったので!大丈夫かなって…思いまして」
苦しい言い訳。
沖田様は苦笑いして
「あぁ、大丈夫だよ。先日から軽い風邪が、ずっとぬけていなくてね。心配してくれてありがとう」
私の言うことに気づいているのかいないのか、はたまた気づいていないふりをしているのか。
それは分からないけれど、なんとなく沖田様が濁した…というのは分かった。
私がそう思ってるだけかもしれないけど!!
「あぁ、あなたさん」
「はい!何でしょう」
ここを去りかけた沖田様は、私の方を向いて、思い出したようにいった。
私も沖田様の方を振り返り言うと。
「今夜、空けといてね。君の部屋に行きたいな」
「はい!」
元気に返事をした私を、沖田様が苦しそうに見てたことはきがつかなかった。
私はせっせと境内をほうきではく。
これから起こることを知らずに。
のうのうと今日を過ごしていた。
この日を後悔しなかった時は。
沖田様をわかってあげられなかった私をもどかしく思わなかった時は。
こんなに絶望した日は。
後にも先にも、ないと思う。
夕餉がおわり。
「あなたさん、いる?」
沖田様が来た。
そう思って障子をあける。
「はい!沖田様、どうぞ」
座布団をひき、お茶を入れようと立つ。
「では、お茶をいれてくるので…」
「あぁ、あなたさん、いいよ」
でも沖田様にいいと言われた。
気遣いをしてもらえたの?
すぐ終わる話なのかしら?
それはそれで悲しい…けれど。
「あなたさんあのね」
「はい!」
沖田様に話しかけられ、なんだか久しぶりで嬉しくて笑顔で返事すると。
沖田様は、一瞬苦しそうに顔を歪ませた。
「あの、ね…」
「はい。何でしょうか。沖田様の言葉ならなんだって聞きますよ」
その様子を心配して、穏やかに答える。
すると、沖田様は泣きそうになりながら。
「あなたさん、僕達、終わりにしよう」
あなたと私の、唐突な終わり。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。