第4話

Ep.03【少女と異形】
31
2019/09/02 08:50
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
い、異形………さ、ま

目が覚めて目の前に異形がいて驚かないはずがなかった。
切株に座った男は少女からすると壁も同然だった。
手を伸ばせば捕まるんじゃないかと思う程。
________捕まれば、異形化される。



















私の村では小さな時から言われる事がある。




【異形様には触れてはいけない】




異形に触れると異形化といって、徐々に人間ではなくなってしまうという言い伝えだ。

昔、魔法が使えなくなって来た頃からこの村には3年に1度村から1人生贄として人間を捧げるというしきたりがある。

何故生贄が必要になったのかが不明であるが、1度この異形の森に入って帰って来た者が1人もいたことがないという。



その異形は森に住んでおり、生贄の人間の喰らっているという。










逃げなきゃ


そう思ったが、力が上手く入らず起き上がることが出来なかった。

アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
……………ぅ、
男はアウラには決して近づこうとせずに墓石を見つめながら、ぬるくなった紅茶を口にして彼女に言った。

???
………分かってくれないなら仕方ないがここは俺の話を聞いてくれ。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
…………っ



少女は異形が目の前にいることの絶望や心身の疲労で身を動かすことが出来ず、話を聞くことしか出来なかった。

アウラは覚悟し、黙って話を聞いた。


???
ひとつ、走れるほど回復しているようには見えないから大丈夫だとは思うが、その小さな体で瘴気に溢れた森で走るのはおすすめしない。
???
瘴気にやられているようだからまず少し休め。どっちにしろ動けないんだろう。
???
ふたつ、生贄でこの森に来たのかは知らないが、俺はお前を喰おうなんて気はない。
???
みっつ。俺の質問に答えてくれ。



ふいに座る向きを変えてアウラの方を向いた。


帽子や前髪で目が見えないとはいえ、真っ直ぐアウラを見ているのがわかった。



???
俺はノックス。お前の名前は?




突然の自己紹介と質問でびっくりしたが、

聞き捨てならないことがあった。



アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
あなたが私を食べたりしようとしてないことも、わかった……
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
わ、私が今そんなに動かない方が良い事も、
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
………………でも
ノックス
ノックス
…信用できないか。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
…………ちがう
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
【生贄】って…私の村のしきたりのこと…………?


アウラは目に涙を溜めながら言った。



ノックス
ノックス
…!
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
わたし、私は……【生贄】だったの…?



一瞬止まり、ティーカップを置いて俯いた。

少し考え事をした後、重々しく口を開いた。






ノックス
ノックス
…一旦これに関しての質問をもうしないと約束してくれるか。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
………わかっ、た
ノックス
ノックス
とりあえず俺の質問に答えて欲しい。
ノックス
ノックス
そうしたら多分、お前の質問に答えられると思う。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
………わたしは、あ、アウラ=ナトラーヴァル



名前を言うと、ノックスと名乗った異形ははっとして顔を上げ、また私をじっと見つめた。





唇を震わせて、








ノックス
ノックス
……………………お前は、きっと、生贄としてここに来た。





そう私に告げた。

私は声が出なかった。何故なら、






その声は3回目の絶望を感じた私よりも、酷く悲痛な声をしていたから。













アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
………なんで
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
なんで私より悲しんでるの?





人ならざる者と呼ばれた異形が、異形様が


どうして村の人より人らしい感情をこんなにも出しているんだろう。


その疑問が悲しみを追い越していた。








ノックス
ノックス
………もうそろそろ起き上がれるんじゃないか
ノックス
ノックス
起き上がれるのなら、その足の傷をこれでふいてガーゼを当てろ。包帯も使っていい。



ノックスが立ち上がり、アウラの傍に水の入ったバケツとタオル、ガーゼと包帯を置いた。



ノックス
ノックス
……………………いつか話す。きっと
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
……忘れないでね
あまり触れてはいけない話題に触れてしまったと感じたアウラは掘り下げなかった。

今までだったら悪くなった空気をどうにかしようとして自ら明るく振舞っていたが、今回はそうしなかった。




悪い人じゃない。そう確信した。
今まで私を騙していた村の人たちよりよっぽどだ。彼は本心で悲しんでくれている。

彼のそんな声はもう聞きたくなかった。










アウラはゆっくりと起き上がり、濡らしたタオルで傷口を優しく拭き、ガーゼを当てて包帯を巻いた。
ノックス
ノックス
…………他にどこか痛む所はないか
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
まだ頭が変な感じするけど……大丈夫
ノックス
ノックス
もう少し落ち着いたら俺の家に来るといい。俺の家は瘴気がここ程ではないが少し薄いんだ。



アウラは上を見上げた。



森にぽっかりと空いた穴。空が近いようで遠い。



アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
…瘴気ってさっきも言ってたけど、何?
ノックス
ノックス
魔法の存在は知ってるか?
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
知ってる。本で読んだことある
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
今は使われなくなって…見たことはないけど



元々友達が少なかったアウラは村にあった小さな図書館で本を読んでいることがほとんどだった。

意味がわからないものもたくさんだったが、読めて意味がわかったときの喜びが楽しくて、本が大好きだった。



アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
たまに遊びに誘ってくれる友達もいたんだけどね、本当にたまにだからほとんど本を読んでることが多かったな
ノックス
ノックス
…本が好きなのは、いい事だよ。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
……あっごめんなさい、話逸らしちゃった


思わず村の時のことを思い出して話してしまった。


ノックス
ノックス
話せば長くなるが。いいのか?
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
まだ少し休むのなら、その間にでもと思ったんだけど…
ノックス
ノックス
……………………そうだな。
彼はゆっくりと口を開いた。
私は足をぷらぷらとさせたりしていた。


ノックス
ノックス
魔法を使うには魔力が必要なんだ。
ノックス
ノックス
魔力はその人に宿ってるものなんだが、体調とか気分に左右されやすいんだ。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
へえ、生き物みたいなのね
ノックス
ノックス
よくそう言われてたよ。



お伽噺の様で少し楽しくなっていた私が馬鹿だった。



ノックス
ノックス
正の感情、喜びとか楽しさとか。そうなれば運気も上がるし、場合によっては強くなれた。
ノックス
ノックス
でも負の感情に完全に囚われてしまうと
ノックス
ノックス
魔力が別のものに変わり、段々と人でなくなる。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
____え?
ノックス
ノックス
……ここはそういう人間…いや、元人間達が生きている場所なんだ
ノックス
ノックス
ただ俺の場合は少し違くて、もうここには俺しかいないけどな。



これはお伽噺なんかじゃない。現実だ。



ノックス
ノックス
文明が発達して魔法が必要とされなくなったんだ。
ノックス
ノックス
ある程度の魔力がないと魔法は使えない。
当時魔法使いとして仕事を出来た人達は生まれながらのエリートみたいなもんだったって聞いた。
ノックス
ノックス
魔力の量の差はよく遺伝もしたりするらしいから、魔法使いの家系に生まれたら魔法使いになっている事が多かった。
ノックス
ノックス
「限られた人が使える」魔法と、「だれもが使える」文明。どっちを人々が選ぶなんて明白だった。
ノックス
ノックス
…魔法使いになりたくてなれなかった文明者が憎んだのか、そのうち「魔法は人知を超えた呪いだ」と言い出した。
ノックス
ノックス
そこからは早かった。
ノックス
ノックス
魔法使い達を村から追放して、閉じ込めたんだ。


私は淡々と話す彼の話を一言一句聞き漏らしのないように、耳をすませて聴いていた。



その閉じ込めた場所って________


アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
ここ………………
ノックス
ノックス
…………いきなり追放されて、閉じ込められてしまった影響、理不尽な村人の行動で負の感情で負の魔力になった。
ノックス
ノックス
その力は魔法使い達を異形にした。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
…………酷い
ノックス
ノックス
…仕方の無いことなのかもしれない。
ノックス
ノックス
最初に理不尽だと感じたのは魔法使いになれなかった人々だ。
ノックス
ノックス
その差を埋めるために人々は様々誰でも使える道具を沢山生み出した。結果的に人々は平等を手に入れた。
ノックス
ノックス
……魔法使いを消し去ることで。
ノックス
ノックス
理不尽とさっき言ったが、仕方の無い理不尽だったのかもしれないとも思っている。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
…それでも………追放していい理由にはならないんじゃないの…………?





…こんな薄暗い、何もいない、何も無い所になんか誰も来たいはずがないのに。


どうして分かり合えなかったんだろう。





ノックス
ノックス
…………本当に、その通りだ。


ノックスもアウラがやったように、黙ったまま天を仰ぎ、そして手をかざした。


ノックス
ノックス
人間が死ぬ時に肉体を遺すのは逆に、異形が消える時には肉体を遺さない。
アウラ=ナトラーヴァル
アウラ=ナトラーヴァル
………消える……………
ノックス
ノックス
代わりに遺したのが負の魔力。それが瘴気。
ノックス
ノックス
行き場を無くした沢山の負の魔力が、この森を瘴気で満たしてしまった。




____この瘴気は魔法使い達や今までの異形の【さいごの意思】だと俺は思ってる。


ノックスがそう言ったのを、私は忘れない。








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