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第1話

おもしろくない
俺は、今年東寺高校に入学した、
3組の笠谷 工かさたに つかさだ。
クラスにも馴染めてきて、新しい友だちもできて、軽音部にも入って。
充実した高校生活を送っていた。
いや...送っていたはずだった。
最近、おもしろくないことが起きている。
あぁ、最近、というのは、まさしく
今だ。
俺には長年、恋い焦がれている相手がいる。
恋の「こ」の字も知らなかった小学生の俺の初恋を、
あいつはまんまと奪っていったのだ。
そいつは絶世の美少女でも、
ツンデレお嬢様でも、
ゆるふわ癒し系ガールでも、
マリリンモンローでもないが、
少なくとも俺には、彼女らと同等に、
いやそれ以上に、
愛しく見えたのだ。
そう見えているのは俺以外にもいるらしく、
如何せんそいつはモテた。
下駄箱に詰められた恋文を、
破っては捨てる、最上川...。
毎日バレないようにあいつの下駄箱やら
なんやらチェックしてた俺の身になってくれよ誰か。頼むから...。
まあ...そうだな、もうひとつ
特記することといえば...
そいつ、だとか、あいつ、だとかは、
(つまるところ、俺の好きな人、ということだが)
男だ。まぎれもなく、な。
嗚呼、愛しき、美しき、憎き、尊き君よ、
君は何故、
“そこ”にいる?
圭
真琴くん、ほら
絵筆はこうやって持つんだよ。
真琴
真琴
えっと...
こう、ですか、八柳先輩。
圭
ちょっと違うかなあ。
ほら、ここに指を当てて...
真琴
真琴
...すみません、先輩。
僕、不器用で...。
圭
ふふっ。
いいのいいの、真琴くん覚え早いから、すぐに慣れるよ。
軽音の方が早めに終わったから、
愛しの彼を迎えに来たというのに...
こんな不純学園内恋愛みたいなもの見せられたら...
ああもう...これだから美術部はやめとけと
あれほどっ...!!!
愛しの彼、9組の犬塚 真琴いぬつか まことは、
絵の才能に長けていて、小学・中学の頃も何回か
賞をとっていたような気がする。
そして今!その真琴と!体を密着させ!
“絵筆のご指導”という名のセクハラをしている
3年8組の八柳 圭はちやなぎ けい先輩は!
女癖の悪さがひどいと評判の!
薄汚い野郎だぞおい!真琴!わかってんのか?!
先輩の眼を見りゃわかる。
あれは確実に好意の眼。
そして獣の眼。
また敵が増えるのかあ...
やだなあ...特に先輩となると厄介ったらありゃしない。
真琴
真琴
あれ、工?
部活どうしたの?
どうやら此方から話しかける前に
真琴が自分に気づいてくれたらしい。
工
軽音は早く終わったんだ。
えっと...それ、もう終わりそうか?
圭
真琴くんの友だちかい?
真琴
真琴
あ、はい、えっと...
ごめん、工、先に帰ってていいよ。
工
利喜と界人も、下で待ってるけど...?
利喜と界人、というのは、
俺の友だちだ。
真琴
真琴
でも僕今、部長に
筆の持ち方教えてもらってるし...
真琴、おまえなかなか折れないが
これ、あれだぞ?
おまえのためを思って
言ってるんだからな?
このあとおいしく先輩にいただかれたら
一番困るのはおまえだぞ?!
圭
よしっ、真琴くん。
今日は終わりにしよう。
真琴
真琴
えっ、
おや、意外とあちらから折れてくれたようだ。
圭
ふふ、そんな寂しい顔しないでよ。
してねえよ!!!断じて!!!
圭
また明日、美術室ここ開けとくからさ。
真琴
真琴
えっ、あ、明日は活動日じゃないんじゃ...
圭
かわいい後輩くんのためだよ。
さ、ほらほら、お友だち待たせちゃ駄目でしょ?
そしてさらっと明日の予定を入れてったぞこの人...。
まあ明日は俺も活動日だから別にいいけどさあ。
真琴
真琴
ありがとうございます。
工、ちょっと待って、すぐ用意するから。
工
おう。
焦るなよ、おまえドジなんだから。
真琴
真琴
馬鹿!先輩の前でそんなこと言わないでくれよ!!
んもう工ったら...。
頬を膨らませて真琴は鞄を肩に掛け直す。
少し長めの黒い前髪が、僅かに揺れた。
工
ほんじゃ、真琴、帰ろ。
真琴
真琴
うんっ。
八柳先輩、お疲れ様でした。
真琴は手を揃えて、八柳先輩に丁寧にお辞儀をした。
圭
うん、おつかれ、
真琴くん、と、ええっと、
工
笠谷です。笠谷 工かさたに つかさ
圭
じゃあ、えっと、
工くんもおつかれ。
工
お疲れ様です。
失礼します。
そう言って俺は真琴と
下駄箱に続く階段を目指して歩き出した。
圭
あ、工くん。
ふと、声がかかる。
少し失礼だが、首だけそちらを向けた。
圭
がんばってね。
あー、なるほど。
宣戦布告ってわけか。
やってやろうじゃねえか、この恋慕。
ああ、でも、あれは知らないのかな。
敵は俺だけじゃないってこと。
利喜
利喜
おっそいよ!工!マコ!!
真琴
真琴
ごめんよ、としちゃん!
部活が長引いちゃって...。
界人
界人
まあまあ利喜、部活は仕方ないよ。
僕も昨日待たせちゃったしね。
オアイコ、オアイコ。
下駄箱を抜けた先には、腰に手を当てて
いかにも「ぷんぷん」と擬音が付きそうな
ポーズの幼なじみがいた。
彼は真琴と同じクラスの
久田 利喜ひさだ としきだ。
七三分けに眼鏡というthe 真面目!
的風体をしているが、
彼が真面目なところなど見たこともないし
想像もつかない。
しかし頭が良いのは事実であり、
成績は学年トップである。なぜだ。
真琴とは3歳の頃から知り合いらしい。
ちょっと羨ましいと思ってしまうのも無理はないよな...。
隣の鼻筋の通ったイケメンは、
俺と同じクラスの
戸川 界人とがわ かいとだ。
えっと...そうだな...
とりあえずイケメンだ。
界人とは高校で知り合ったばかりで、
お友だちになりたてホヤホヤというわけだ。
そしてすごくイケメンだ。
それから、彼は演劇部だ。
イケメンだもんな。妥当だよな。
イケメンは得だなほんとに。
工
さ、帰ろうぜ。
利喜
利喜
そうだな!
あ~なんか腹減っちゃったわ~。
真琴
真琴
としちゃんは今日も図書室で
自習してたの?
利喜
利喜
あったりめえよぉ!
帰宅部ガチ勢をなめんなよ!?
界人
界人
やっぱ9組は違うなあ...。
工
界人、3組は3組らしくやってこう...。
こいつら基準にしてると阿呆になるぞ。
彼ら2人もまた、
真琴に恋心を抱いている人間だ。
だが、彼らは距離感をよく心得ている。
真琴が傷つかない距離感。
誰も得しない距離感。
真琴はきっと、俺らの誰のことも
好きではないだろう。
そのうち君が、誰かに恋をしたら、
俺たちは、君の背中を、
押して、
笑って諦めてやれるんだろうか。
でも、今はまだ、
このむず痒い関係のままでいよう。