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恋に落ちるきっかけは
多分人それぞれ。
一目見て好きになる人もいるし、
長い友達関係の末に付き合う子もいる。
私はまだ恋の初め方も、
好きになることも分からない。
高一の春休み。
それは突然目の前に落ちてきた。
春休みを返上して
私は今日もコンビニバイト。
時給もそこそこで店長も優しいし
暇が紛れると思えば
この時間もまぁ悪くない。
でも14時を過ぎてから客が減る時間が
絶妙に暇で退屈だ。
そんなさなか、
長身で綺麗な顔の男性が
こっちに向かってきた。
よく見ると隣の高校の制服を着ている。
見惚れるほど綺麗に整った顔立ち。
きゅっと少し上がった目尻と唇が
少しだけ猫に似てる。
そして落ちた視線の先に
目の前に置かれたひとつのミルクティー。
たしかこれは1+1
もうひとつ貰える商品のはずだ。
嬉しそうに目を細めて
そのまま冷蔵ケースに向かっていく。
少ししたら同じ商品を手にして
また嬉しそうに帰ってきた。
お会計を済ませて
ミルクティーふたつを差し出すと、
片方を受け取り、
もう片方は私の方に押し返された。
えっ、と声を漏らして見上げると
くすりと笑う彼と目が合った。
返事をする間もなく手に握らされ、
気が付けばもう
自動ドアを抜けた先の背中しか見えなかった。
目が合った時の笑顔が頭に付いて
掛けられた言葉にも
ちょっとだけ嬉しい自分がいる。
名前、なんて言うのかな。
何年生だろう。
なぜだか彼のことが気になった。
通学路の桜の花も開きつつある
今日から新学期。
暖かい風が頬を撫でて
春本番の陽気を言葉通りに肌で感じる。
何度経験してもこの季節はいいものだ。
ばたばたと学校を終えて
向かう先は相変わらずバイト先のコンビニ。
桜並木を抜けて、
角を曲がった先にある紫の建物。
その入口横のベンチに
見覚えのある人。
必死で否定するように首を振ると
可笑しそうに声を立てて笑う。
レジ越しに会ったあの時よりも
柔らかい表情だった。
その雰囲気に私も少しほっとする。
あ、そうだと手を打って
鞄の中からごそごそと何かを取りだした先輩。
出てきたのは
この前と同じミルクティー。
出会った時のように
ミルクティーをひとつ、
私に握らせて
先輩は持っていたミルクティーを
コツンと合わせた。
あなたと二人で分け合った今日は
忘れられない
甘いミルクティーの味がした。
1+1
( この感情も共に分け合えたら )
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。