.
クリスマスキャロルに包まれた街
大通りを行き交う肩を寄せあった恋人たち
早いもので今日はクリスマスイヴ
プレゼント喜んでくれるかな
今日は大好きな彼とディナーを食べている予定だった
別れを切り出されたのは昨日の夕方で
うきうきと彼に渡すプレゼントを買いに出ていた時
他に女ができた別れようって端末上に一言
冬の風が痛いくらい冷たかった
.
せっかくのクリスマスだから好きなことしよう
気持ちを切り替えて行きつけのカフェの扉を開けば
ふわり、と優しいコーヒーの香り
顔見知りのオーナーにいつものと告げてお気に入りの席に腰を下ろす
少し離れた隣のソファ席に座り、静かに本を読んでいる眼鏡姿の男性
いつも下を向いているから顔立ちはよく分からないがとても優しげな表情で読んでるなぁと思ったことがある
なにより、いつもきまって隣同士
しかも大体時間が同じ
すごい偶然だなぁ、と思いながら溜息をひとつ
街の喧騒と離れたこの場所
悲しい気持ちをきれいさっぱり忘れさせてくれる
…はずもなく、私はまだ引き摺っていた
2年付き合った彼
笑顔が可愛くてだいすきだった
ずっと一緒にいれるなんて馬鹿みたい
だめだ、涙がこぼれそう
徐に鞄から持ってきた本を取り出す
ちらりと隣を見れば
全く同じカバーが彼の手の中に収まっている
少しだけ気まずい、
読むのをやめようかとも思ったが、このままぼんやりしていると気持ちが落ちていくだけなので大人しく読むことにした
.
気がつけば時計の針は20時を過ぎたところ
そろそろ帰ろうと席を立った
重たいドアを開けて外の空気をめいっぱい吸う
さすがクリスマス、寒さが尋常ではない
マフラーを巻き直し、帰路につこうと歩き出すとなにやら柄の悪そうな2人組がこちらに近づいてくる
「ねぇ、ひとり?
寂しいでしょ、相手してあげる」
強面の男ふたりに行く手を阻まれ執拗いくらい声を掛けられる
反対から行けばよかったと後悔しても遅い
ひたすらに無視を決め込む
おい、聞いてんのか
勢いよく肩を掴まれそうになった瞬間
優しい低音が耳に入り
誰かの腕が背後から私の肩を抱く
そのままくるりと向きを変えられて
ぱっと見上げるとタートルネックが良く似合う眼鏡姿の男性
驚いて何も言えない
彼の視線がこちらに向くと、口角を上げそのまま一緒に歩き出す
少しだけ甘い香りが鼻を掠めた
.
はい、と手渡されたさっきまで読んでいた本
そう言ってふっと頬を緩ませる
いつも本を読んでいる時の表情とおなじ
心臓が早くなるのが分かる
すると突然、見上げていた彼の顔が近付いてくる
切れ長の目がこちらをじっと見て離さない
目を逸らすと、綺麗な指が私の目元に触れる
そのまま流れるように頬の辺りを撫でる
優しく触れる指にふと元彼を思い出して涙が溢れそうになり、咄嗟に目を擦る
左手は簡単に彼の手に包まれ身動きが出来なくなる
止めきれなかった雫がつぅ、と頬を伝う
彼は何も言わず私の涙を掬って、掴まれていた左手をぐっと引かれる
気がつけば視界は彼の胸元
後頭部に回された手が一定のペースで撫でるから、涙が止まらくなる
この温もりに何故だか安心する私がいる
まるでずっと前からこの人を知ってるよう
( もう少し、このまま )
.
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。