第5話

もう少しこのまま/wonwoo
12,899
2020/12/20 15:41
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クリスマスキャロルに包まれた街
大通りを行き交う肩を寄せあった恋人たち

早いもので今日はクリスマスイヴ

プレゼント喜んでくれるかな
今日は大好きな彼とディナーを食べている予定だった




別れを切り出されたのは昨日の夕方で
うきうきと彼に渡すプレゼントを買いに出ていた時
他に女ができた別れようって端末上に一言


冬の風が痛いくらい冷たかった


.


せっかくのクリスマスだから好きなことしよう

気持ちを切り替えて行きつけのカフェの扉を開けば
ふわり、と優しいコーヒーの香り

顔見知りのオーナーにいつものと告げてお気に入りの席に腰を下ろす





me
( あ、またいる )

少し離れた隣のソファ席に座り、静かに本を読んでいる眼鏡姿の男性
いつも下を向いているから顔立ちはよく分からないがとても優しげな表情で読んでるなぁと思ったことがある

なにより、いつもきまって隣同士
しかも大体時間が同じ


すごい偶然だなぁ、と思いながら溜息をひとつ


街の喧騒と離れたこの場所
悲しい気持ちをきれいさっぱり忘れさせてくれる
…はずもなく、私はまだ引き摺っていた

2年付き合った彼
笑顔が可愛くてだいすきだった

ずっと一緒にいれるなんて馬鹿みたい
だめだ、涙がこぼれそう


徐に鞄から持ってきた本を取り出す
me
( わ、今日の本被っちゃった…)
ちらりと隣を見れば
全く同じカバーが彼の手の中に収まっている

少しだけ気まずい、
読むのをやめようかとも思ったが、このままぼんやりしていると気持ちが落ちていくだけなので大人しく読むことにした
.


気がつけば時計の針は20時を過ぎたところ
そろそろ帰ろうと席を立った


重たいドアを開けて外の空気をめいっぱい吸う
さすがクリスマス、寒さが尋常ではない

me
はやくかえろ

マフラーを巻き直し、帰路につこうと歩き出すとなにやら柄の悪そうな2人組がこちらに近づいてくる


「ねぇ、ひとり?
寂しいでしょ、相手してあげる」

強面の男ふたりに行く手を阻まれ執拗いくらい声を掛けられる

反対から行けばよかったと後悔しても遅い
ひたすらに無視を決め込む


おい、聞いてんのか
勢いよく肩を掴まれそうになった瞬間


wonwoo
wonwoo
ごめん、待たせた
優しい低音が耳に入り
誰かの腕が背後から私の肩を抱く

そのままくるりと向きを変えられて
ぱっと見上げるとタートルネックが良く似合う眼鏡姿の男性

驚いて何も言えない
彼の視線がこちらに向くと、口角を上げそのまま一緒に歩き出す

少しだけ甘い香りが鼻を掠めた


.
wonwoo
wonwoo
ここまで来たら大丈夫かな
me
すみません、助かりました
wonwoo
wonwoo
いえ
それとこれ、忘れ物
はい、と手渡されたさっきまで読んでいた本
me
え…どうしてこれ
wonwoo
wonwoo
本の趣味が合いますね
me
っ!もしかして
さっきまで隣の席にいた…
wonwoo
wonwoo
まぁいつも?ですかね
そう言ってふっと頬を緩ませる

いつも本を読んでいる時の表情とおなじ
心臓が早くなるのが分かる



すると突然、見上げていた彼の顔が近付いてくる
切れ長の目がこちらをじっと見て離さない
目を逸らすと、綺麗な指が私の目元に触れる
wonwoo
wonwoo
もしかして何かされた?
me
何も無いですよ、
wonwoo
wonwoo
泣いてたように見えるけど

そのまま流れるように頬の辺りを撫でる
優しく触れる指にふと元彼を思い出して涙が溢れそうになり、咄嗟に目を擦る
me
違います、大丈夫ですから
wonwoo
wonwoo
擦らないで
左手は簡単に彼の手に包まれ身動きが出来なくなる
止めきれなかった雫がつぅ、と頬を伝う

彼は何も言わず私の涙を掬って、掴まれていた左手をぐっと引かれる

気がつけば視界は彼の胸元


me
っ、
後頭部に回された手が一定のペースで撫でるから、涙が止まらくなる

この温もりに何故だか安心する私がいる
まるでずっと前からこの人を知ってるよう






( もう少し、このまま )




.



wonwoo
wonwoo
いつも楽しそうに読んでいるのに
今日は今にも泣きそうな顔で読む君が
何故だか気になって
席を立った瞬間思わず追いかけた
wonwoo
wonwoo
泣き腫らしたような目を見て
ああ、
俺ならこんな顔させないのになんて
wonwoo
wonwoo
話したこともない君のことが
こんなに愛おしいのはどうしてだろうか

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