第110話

darling/s.coups
6,171
2022/04/17 15:42

















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夕暮れの公園、



振り返った私の右手を誰かが掴んだ。










ひとまわり大きな暖かい掌。







どこか懐かしい花の香りが漂っている。










子供の頃、

たった半年しか過ごせなかった街。





転校を繰り返していた私にとって

友達はあまりいなかったけど




彼だけは私の唯一の思い出だった。









たしか、名前は______




















me
夢か…










重い瞼を擦り起き上がる。



窓の向こうから鳥のさえずりが聞こえた。








何度目か分からないこの夢は


いつもここで朝を迎える。







まだ続きを知るときではないようだ。
































大学4年の春。







もうすぐ私は大人にならなくてはいけない。























同級生も最近は

めっきり姿を見なくなった。





4年生といえばもう講義はないし


あとは卒論を終えて
それぞれの進路に向けて旅立つ準備のみ。











きっと早く過ぎるんだろうなと

まだ実感の無い頭で考えた。
























s.coups
s.coups
me
あれ、
s.coups
s.coups
あなた来てたんだな









論文用の資料を押さえておこうと

資料室に向かう角を曲がると



同じく資料室を目指していたであろう

同じ学部のスンチョルと遭遇した。









最後に会ったのはいつだっけ。


頭を捻って考えてみても思い出せない。





それほど会ってなかったみたい。




























s.coups
s.coups
入んねぇの?
me
え?
s.coups
s.coups
資料集めだろ
me
あぁ、うん









ふ、と笑いながら

スンチョルが資料室のドアを開けた。






その背中について行くように部屋に入ると


埃の被った

古書の香りがほんのりと香る。







窓からは西日が薄らと差し込んでいた。






















s.coups
s.coups
軽く2ヶ月は
会ってなかったよな
me
そんなだっけ?
s.coups
s.coups
あー、多分?
me
スンチョルを
見た覚えないんだけどな
s.coups
s.coups
俺が一方的に
見掛けたのかもな
me
お互いぼけてるね
s.coups
s.coups
春だからな






目が合うと はは、と笑い出すから


思わず私もつられて笑った。








人と話すの自体少し久しぶりで


なんかちょっと緊張してる自分がいて笑える。







相手は友達、

しかもスンチョルなのに。

















s.coups
s.coups
なに探してんの?
me
これ関連








持っていたスマホの画面を見せると


その手を掴まれて引かれた。









覗き込んで数秒後、

納得したように頷いたスンチョルと目が合った。



















s.coups
s.coups
ふは、どした
me
え!
s.coups
s.coups
顔赤いけど
me
いや、見間違いでしょ









ぎゅっと掴まれた手に


少しだけ鼓動が早まる。









ただの友達だけど


こんな近くで彼を見た事はなかったかもしれない。





この状況を打開する

丁度いい言い訳すら出てこなかった。


















s.coups
s.coups
ちょっとからかっただけ
怒んなって








ぱっ、と右手を離して棚に向かう。





別に怒ってなんかない。



ちょっと驚いただけだ。























me
ねぇ、
s.coups
s.coups
んー?
me
スンチョルはさ
早く社会に出たいって思う?
s.coups
s.coups
そりゃあな
me
そっか
me
まぁそれが普通だよね
s.coups
s.coups
名残惜しいけどな
s.coups
s.coups
でもやりたいこと出来るのは
多分楽しいだろ
me
うん…
s.coups
s.coups
まぁ別に周りがそうだからって
自分を縛る必要も無いとおもうけど
me
え?








隣に立つスンチョルを見上げたら



棚に手を伸ばして

そのまま真っ直ぐ本を見ていた。















s.coups
s.coups
無理に
大人になる必要はないだろ
me
そっか
me
ありがとうスンチョル
s.coups
s.coups



me
そういう所好きだよ







スンチョルに励まされるのは

なんかちょっと不思議な感じだけど。






ふふ、と笑って棚から本を取った。



















me
あったから行くね
me
ありがと












くるりと振り返って


そっと入口に向かって歩き出せば






ドアの手前で

後ろから手首を引っ張られた。








そして口を開くよりも先に

彼の腕が回ってきて



そのまま後ろから抱きすくめられた。










力強く肩口に回った腕。



どこかで感じた香りがふわりと鼻を掠めた。






















s.coups
s.coups
待って
me
な、に…
s.coups
s.coups
さっきのは反則
me
さっきってなに
てか離して、って…















なぜか今、

今朝見た夢を思い出した。








夕暮れの公園、


振り返った私を止めた大きな手。





あの時私を引き止めたのは
















s.coups
s.coups
あなたさ
s.coups
s.coups
無意識でそういうの
やめろよ
me
え…
s.coups
s.coups
やっと諦められそうなのに












はぁ、と大きく息を吐いて


右肩に頭を乗せてくる。









me
諦めるって
s.coups
s.coups
ずっと好き
s.coups
s.coups
初めて会った時から
俺はあなただけ
me
っ、













回された腕に力がこもる。



触れるところ全部侵食されるみたいに熱い。






どんどん加速する心臓が痛くて



感情が分からない。













me
スンチョル、
s.coups
s.coups
もう待てないから
s.coups
s.coups
早く俺のとこに来て



























darling

( 君じゃないとだめみたい )























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