食事帰り、ぼーっと歩いていた私に声をかける
さりげなく車道側を歩く彼
長身のくせに歩幅を私のペースに合わせてくれる
そういう所が好きなんだよ
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彼と出会ったのは2年前
桜が綺麗な頃だった
日本から通訳を志して渡韓した私は彼らの事務所で働くことになり、日本デビューからずっと付き添ってお仕事させてもらっている
2年も関わっていれば自然と仲も深まり、特に同い年のミョンホとは話す機会が多くプライベートでもよくご飯に行ったりする
微笑みながらまた前を向いて歩き出す
彼はいつも優しい
異国の地から来た者同士、困った時いつも力になってくれたのはミョンホだった
その代わりたくさん支えられるように頑張った
私たちはいい信頼関係が築けてると思う
だから辛かった
こんな気持ちになってしまうことが
誰にも悟られないよう必死で押し殺して接しているけど、結構限界
変わらず彼は嘘のない笑顔を私に向けるから
へらりと笑うと細い指に頬を摘まれる
あなたはいつも無理するからさ、
そう言いながら指を離して頬を撫でる
私の気持ちなんて知らないくせに狡い
また容易く気持ちが溢れてしまう
一段と優しい表情
いいな、
彼にとって大切なんだって一瞬でわかる
一番好きな表情
ふと彼が立ち止まってこちらを振り返る
少し改まったような、私の知らない表情
黒翡翠の瞳が小さく揺れている
彼の口からそんな言葉が出るなんて
驚きと戸惑いで思わず視線を逸らす
心臓の速さが異常だ
ふふ、と満足そうに笑って私の手を取る
月が綺麗ですね
( あなたのことが好き )
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。