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冷えた廊下の壁に背をつけて
中から聞こえてくる2人の声に耳を澄ませる。
今日スケジュールあるって言ってたのに
スングァンオッパは
ほんとちゃっかりしてるよね。
手元の紙袋に目を落としながら溜息をひとつ。
今日はチャニオッパの誕生日。
密かに思いを寄せている私にとっては
大切な日でもある。
だから今日は早くお祝いしたかったのだけれど
スケジュールが詰まってて
仕方なくこの時間になってしまった。
せっかく急いで事務所帰ってきたのに…
さっきVライブの通知飛ばしてたから
こりゃ当分出てこないなと悟って
くるりと踵を返した。
リビングのソファで出迎えてくれた
スマホ片手に
にこにこと笑うシュアオッパ。
流れるように隣に座って
オッパの座ってる反対側に雪崩ると
ぽんぽんと頭を撫でられた。
もうチャニオッパなんて知らない、
そう思いながら目を閉じた。
薄い意識下で
大好きな声が聞こえる気がした。
夢かな…?
だってオッパはまだ帰ってきてないんだし。
帰ってきたらあなたがひとりで
リビングのソファに寝転んでた。
こんなとこで寝たら
ヒョンたちの目に付くから
ソファで寝転ばないでっていつも言ってるのに…
しゃがみこんで顔をのぞき込むと
しっかりと瞼を閉じて、唇は少し開いている。
いつもきりっとしてるあなたが少し幼く感じて
なんだか少し胸が騒ぐ。
一つ下、俺たちの大切なマンネ。
この小さい体でたくさんのものを背負っているのは
練習生の頃から
一番近くで見てきたから痛いほど分かる。
だから俺が守りたい。
あなたの笑顔も居場所も。
そう思いながらずっと見てきた。
華奢な肩を軽く揺すってあなたの腕を除けると
手元から小さな紙袋が出てきた。
なんだろう…
好奇心が勝って、
そっとその中身を見ると四角い箱と封筒が入っていた。
箱を開けると
細身で綺麗な硝子に入った香水が収まっている。
ラベルには19990211と印字されていて
あなたが使ってるメーカーと同じものだった。
シュアヒョンやディエイヒョンと仲良いからか
あなたはほんとにセンスがいい。
もうひとつ、真っ白な封筒には
「チャニオッパへ」という丸くて可愛らしい文字。
そっと開いてみれば
便箋1枚にきっちりと綺麗に文字が並んでいる。
______チャニオッパ
手紙を書くのは久しぶりだからすごく恥ずかしいねㅎ
でもせっかくの機会だから素直になってみるよ。
いつもオッパに助けられてばかりだね。
ダンスの練習、
私ができるようになるまで教えてくれてありがとう。
オッパのパフォーマンスは世界一だと思ってるよㅎ
入所したての頃、
ひとりぼっちだった私に手を伸ばしてくれてありがとう。
オッパがいつも傍で見ていてくれたから
私はこのグループにいていいんだって思えたんだ。
だから私もオッパの努力を誰よりも知ってる。
無理しちゃうところも全部知ってるよ。
疲れたらいつでも私のところに来てね。
私が必ずオッパの力になります、味方になります。
お誕生日おめでとう。
大好きだよ。
あなた ________________
目を瞬かせた先にいたのは
会いたくて仕方なかったひと。
手に持ってるのは
一番に渡すはずだったプレゼントと手紙。
反射的に手を伸ばしたら
手紙を手に持ったまま両腕を回して
そのまま抱き留められた。
はぁ、と息を吐く私を宥めるように
大きな手が頭を撫でる。
オッパの腕の中、温かいな…
そっと腕を離して
お互いに向かい合う。
ソファに座ってる
私の前にしゃがみこんでいるオッパは
高さ的に私の顔を覗き込むような感じになる。
真剣な瞳でこちらを見るから
恥ずかしくて目を合わせられない。
この空気感から逃げたくて
約束もしてないことを口走って立ち上がる。
でもそれを許してはくれなくて
立ち上がった瞬間両手を掴まれてしまった。
取られた両手は柔らかく包まれて
まるでオッパの熱に溶けるみたい。
その手に促されるようにソファに座ると
口角を上げながら
もう一度彼の腕の中に収められた。
耳に届いた甘い言葉と
触れた唇の熱は
私の意識すら焦がしてしまうようだ。
独り占めさせて
( 願うことなら、体も心も )
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디노 생일축하해.
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。