.
気がつけばもう日が暮れていた。
塾の自習スペースにはちらほらとしか
学生は残っていなかった。
受験生にとっては最後の山場といったところ
無論私も然り。
ノートを鞄に収めようと開いてみれば
彼に渡すはずだった缶コーヒーと小さなチョコレートが目に入った。
ああ、そうだ
昼間 彼に渡しそびれたんだった。
彼の席の前に立つ私を見上げて
にこ、っと細まる目尻にきゅんとする。
同じクラスのソクミンくんは私の好きな人。
みんなに優しくて
かっこよくて面白いソクミンくん。
先生からも評価高いし
そりゃあもう人気者なわけで
他クラスの女子から
好意を寄せられていると聞いたこともある。
負け戦なのも分かってる。
でもやっぱり諦められない自分がいた。
差し出そうとした手は
彼の言葉を聞いて引っ込めた。
申し訳なさそうに眉を下げて謝って
教室を出ていく背中。
彼にとって私は
この先もきっとただのクラスメイトなのだろう。
塾の窓から外を見れば
白くて小さい雪がふわふわと空を舞っていた。
帰りのバスまではまだあと20分もある。
仕方なくロビーの椅子に座った。
手中には
渡すつもりだった缶コーヒー。
私はコーヒーが飲めないから
残ってしまってもどうしようも無い。
頑張って飲むか…
缶を開けようとプルタブに指をかけた瞬間
隣の席に座ってきた友達のミンギュ。
ひょい、と
私が持っていた缶を奪っていった。
そう言うと
ニヤリと笑ってくるミンギュに腹が立つけど
こっちも飲んで貰えたら助かるから
ここは素直に渡すことにする。
缶を受け取って
嬉しそうに笑ってプルタブを開けた。
ミンギュのお陰で苦い思いをしなくてすんだ。
昼間のことも、コーヒーの味も。
差し出してきた手に
小さなチョコレートも乗せてあげた。
チョコレートを見ながら
何か合点がいったように頷いたミンギュ。
大きな手が私の前髪に触れて
くしゃりと握られる。
突然のことに驚いて彼を見上げた。
なんだよ、ミンギュのくせに。
思わず涙が出そうになって前を向いた。
もしも好きな人があなただったら
こんなに苦しい思いはしなかったのかな。
ぎゅうと締め付けられる胸が苦しい。
窓の外の雪はまだ止みそうもない。
すれ違う道の上で
( あなたはきっと私に気づかないのだから )
.
とても余談ですが、
昨日推してる先輩にチョコタルトを作ったんですが忙しかったりなんなりで渡せなかったので
代わりに食べてもらいましたㅎ
勢いで捨てようか悩みましたが
タルトはまだ冷蔵庫にいます…
早く食べてあげよう…
.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!