中心部の外れにある小さな美術館
そこの受付カウンターでお客さんをお迎えする
それが私の仕事
郊外だからか この美術館を訪れる客は少ない
むしろ閑散としている方だとは思う
だけど、絵画から溢れる緊張感、情熱、愛…
小さいながらも様々な感情を教えてくれるこの美術館が昔から大好きだったりする
まぁ館長に直接言わないけど、さ
にしても人は来ないわけで
少しだけ、とカウンターに顔を伏せて
昼下がりの微睡みに体を任せて目を閉じた
ギィ………
重たい扉が開く音に反射的に顔を上げると
入ってきた男性と目線がぶつかる
細身で高い身長に軽やかに揺れる長めのジャケット
綺麗なお顔に大きめの眼鏡がよく似合っている
間違いない、
月に1度訪れるいつもの彼だ
本人には内緒だが、いつも真剣に作品と向き合う彼の姿を見るのが私の毎月の楽しみ
内心来てくれたことを嬉しく思いながらチケットを渡す
不意に彼がこちらに手を伸ばして、私の右耳辺りの髪に触れる
細長い指で梳いて優しく耳にかける
突然のことに驚いて立ち上がると、さっきよりも近くで彼と目が合った
綺麗な瞳
少しばかり見惚れているとゆっくり彼が耳元に近付いてきて思わず下を向いた
こちらを見て微笑むミンハオさん
知り合って長いけどそういえば名前知らなかったな…
そう言うと流れる様に私の手を取り、その手首に唇を落とした
一つ一つの動きがスローモーションの様に見えて、鼓動が早まるのを感じる
一度、目を見て微笑んでから
ひらりと手を振って展示場へと消えていった彼
思わず口を抑えて椅子に座り込む
左手の手首に触れた感触を思い出せば
更に顔に熱が込み上げてくる
頭の中が彼でいっぱいだ
一人呟いた声が広いロビーに響いた
手首へのキス
( 君が欲しい )
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。