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一生懸命ご飯に向き合いながら
顔もあげずそう言った
仕事終わりに近くの飲食店に呼び出したのは私
個室席の向かいに座るのは
物心着く頃からいつも一緒にいた弟のようなジフナ
わたしたちは所謂幼馴染という間柄
驚いたことに職場もお互い近くて
仕事帰りにご飯を食べに行くこともしばしば
ぴしゃりと言い放たれて口を噤んだ
そういえば私に彼氏が出来てからは
あんまり会ってなかったっけ
黙々と食べるジフナを黙ってじっと見つめていたら
彼が顔を上げた
態とらしい笑顔だなって自分でもわかる
まるで興味無いと言うかのように
すぐ視線は目の前の真っ白いお米に落ちた
いつも通りなジフナ
なんだかそれに安心する自分がいる
箸を持ち直して再びご飯を口に運ぶ
今日は焼肉にして正解だった
でもきっとジフナのことだから、今日はお前の奢りなって言うんだろうな…
仕方ないと腹を括ってまた一口、
焼けたお肉とご飯を頬張る
急に名前を呼ばれて顔を上げると
真っ直ぐに伸びてくる彼の腕
戸惑って何も出来ずにいると
その少し骨張った指が口元に触れた
優しく、撫でるように
指で掬ったご飯粒をそのままぺろ、っと口に入れる
視線が一瞬合った
けど、思わず逸らした
ちょっとだけ心臓が煩い
そう言うと箸を置いて徐に席を立つ
ゆっくりと横まで来てしゃがみこみ、私の前にある机に手を着く
いま、壁とジフニに挟まれてる状況
だめだ
頭が混乱してきた
そう言うと、机に着いた反対の手で
そっと私の髪に触れた
私よりも低い声、
いつの間にか追い越された身長、
筋肉がついて太くなった肩、腕…
弟みたいだとずっと可愛がっていたけど
こんな近くにいると嫌でも男なんだと感じる
知る由もなく、
( 甘い言葉とは裏腹に )
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。