「き、今日の放課後って空いてるかな、?」
水瀬の言葉に湯崎は思う。
(水瀬さんは.…真面目なのか?ここで断ったらあれだよな…。)
湯崎は考える素振りをしながらこたえる。
「…とりあえず靴箱の周り人多いから、出よっか。」
そう言って靴を履き、通学路を歩く。水瀬が追いかけてくる。水瀬は言った。
「あ、あの、あのさ湯崎くん。今日の実技の練習…しない?この後、」
真っ赤な顔で水瀬が言う。湯崎は冷静さを保ちながらこたえる。
「大丈夫だけど…やる場所が。。」
水瀬は、はっとした。する所…家は家族がいるからできない。それは湯崎だって同じだろう。どうするべきか…水瀬は考えた。そこに湯崎が口を挟む。
「あっ、でもあそこなら…」と言い、水瀬の手を掴む。急な行動にドキドキしつつも、水瀬は湯崎についていった。
「ここなら良い…んじゃない?」
水瀬は顔をあげる。そこは…カラオケ店だった。水瀬は混乱する。まさかカラオケで…?湯崎が控えめに言った。
「ちょっとだけ歌ってかない?休憩ついでに…」
何を言っているのだろうと水瀬は思う。冷静で何を考えているかわからない湯崎のことが、水瀬はますますわからなくなった。まあでも少しだけなら…と水瀬はカラオケの誘いに乗ることにした。受付で利用時間を告げ、部屋に入る。
「なにか飲む?」
とノリノリな湯崎を見て水瀬は考えた。
(湯崎くんって、気まぐれだなぁ。練習…も、しなきゃいけないけれど、この時間が続くのならそれでも良いかもしれない…)
湯崎は再度聞く。
「あの…水瀬さんなんか飲んだりする?」
水瀬はあわててこたえる。
「ごめんね、少しぼーっとしちゃって…オレンジジュースがいいなっ」
湯崎は頷いて注文を始めた。水瀬は、何を歌おうか考えながら湯崎を見つめていた。無意識だった。湯崎がこちらを見ようとすると自然と目を逸らしてしまう。なんだろうこの気持ち…
ドキドキとうるさく心臓が音をたてる。湯崎くんに…犯されたい。あんな授業でやるようなやつじゃなくてもっともっと過激に…。
水瀬の頭の中はぐしゃぐしゃだった。湯崎に犯されたいという満たされない欲求がただ身体を震わせた。水瀬は自分でも気が付かないうちに相当興奮してしまったようだった。汗ばんだワイシャツが背中につく。水瀬は落ち着こうと思い、お手洗いに行ってくるねと席を外した。水瀬は深呼吸をして落ち着こうと試みた。が、どうもこの心は簡単には鎮まらないようだった。仕方なくトイレを出ると湯崎が立っていた。水瀬は戸惑いを隠せずに言う。
「ゆゆゆ湯崎くん、どうしたの?」
湯崎は、にこりと笑みを浮かべながら言った。
「もしかして、興奮しちゃった?」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!