第11話

寂しげな心に。
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2021/03/23 14:50
「湯崎くん…帰っちゃった。」
水瀬は少し孤独な気持ちになった。湯崎はなにか様子がおかしかった。それを言い出せばカラオケに来たときから変だった。いったい彼はなにを考えているんだろう。
「まだ時間あるけど帰ろうかな。1人で歌うのはちょっと…」
水瀬は帰ることにした。湯崎が机に置いたお金を手に取る。明日にでも返そうと思い、しまおうとした。が、時計を見るとまだそこまで遅い時間ではなかった。今から返せるのでは…?と考える。
学校にお金を持って行き、教師にバレたりしたら面倒だということに気が付く。
「とりあえずカラオケを出よう。」
水瀬はすばやく支払いを済ませ、店を出た。
時計を見る。まだ時間は大丈夫そうだ。
だが、ここにきて水瀬は重大な点に気が付いた。湯崎の家が……わからない。
小学生の時、1度だけ行かせてもらったきりだった。ぼんやりとしか憶えていない。辿り着けるだろうか。。。
水瀬は必死に思い出そうと頭をフル回転させた。しかしなかなか道が浮かばない。
「あれ、水瀬さんじゃん。こんなとこいるなんて珍しいね」
突然頭上から声がした。水瀬はびっくりしてその声がした方を見る。同じクラスの鶴谷 優斗(つるたに ゆうと)だった。
鶴谷はいつも人に囲まれ、いつも笑顔で人気者。到底、水瀬は話しかけることなんてできない相手だった。そんな鶴谷に偶然街で会い、話しかけてもらえるなんて、と水瀬は胸が高鳴った。
「ち、ちょっとね。急なんだけど湯崎くんの家ってわかったりする、、かな?」
水瀬は目を逸らしながら言った。目なんて合わせられるはずがない。鶴谷は考えるそぶりをしてこたえる。
「わかるよ。案内しようか?」
その言葉に水瀬は戸惑う。
「いや…鶴谷くんに悪いよ。なにか用があってここに来たんでしょ?」
鶴谷は笑ってこたえる。
「んー、水瀬さんに逢いに。」
水瀬の心臓は一気に早くなる。鼓動が伝わる。
それをかき消すように水瀬は言う。
「そ、そうなんだね。じゃあ案内してもらっても良いかな?ごめんね。」
「謝らないで。俺は大丈夫だから!行こっか」
鶴谷が歩き出す。水瀬は横を歩いた。ちらりと横を見る。前を向いて歩く鶴谷の顔があった。二重のパッチリとした目と筋の通った高い鼻。さらさらとした短い髪の毛が風になびく。
水瀬の視線に気がついたのか、鶴谷が水瀬の方を見る。鶴谷は、にこっと笑った。
水瀬はだんだん顔が熱くなるのを感じた。やっぱり……かっこいい。
そんなことを考えているうちに、あっという間に湯崎の家に着いた。

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