第15話

君の吐息が僕を掠める
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2021/04/25 07:32
ピンポーン
「あれ…留守かな」
(んん…?!み、水瀬さん!?)
外から声が聞こえる。湯崎は焦る。
「湯崎ー」
(もう1人いるぞ…誰だ…)
けれど湯崎にはそんなことを冷静に考える時間はなかった。乃愛がいるから…。
(ま、まずい…こんな姿見られたらもう終わりだ…外のカーテン越しにリビングにいる僕と乃愛を見たら…水瀬さんはなんて言うだろう。)
湯崎はかなり焦っていた。早くこの状況をどうにかしなければ…。
迫ってくる乃愛を湯崎は押し退けて階段を上り、2階に行こうとした。…が、乃愛が強く服を握って離そうとしなかった。
「の、乃愛…一旦離れt…」
「やだ」
まだ言いきる前に乃愛は言った。
「別にクラスの子なんて意識する必要ないじゃん…私だけを見てよお兄ちゃん。」
「だ、だめだ…水瀬さんに見られる訳にはいかないんだよ。」
湯崎は強引に押し退けて階段を上がっていく。
乱れた服を直してまた玄関に戻ろうと湯崎は考えていた。乃愛は満足できなかった。2階まであと数段というところで乃愛は湯崎に飛びついた。
「うわ…っ」
ドンっという鈍い音がして2人は下に落ちた。
「え、今の音、なに??」
水瀬とそこにいるもう1人の焦っている影があった。2人はなにか話し合った後、立ち去って行った。
(助かった…?)
湯崎は水瀬がポストになにかを入れて行くのが見えた。湯崎は取りに行きたかった。乃愛が飛びついてさえこなければ今すぐに。
「乃愛…なにするんだよ」
「だって、、お兄ちゃんが悪いんだもん…。もっと私に構ってくれても良いのに。」
湯崎は呆れた。乃愛はこんなにも強引な奴だったのか。少し苦手なタイプだ…。と湯崎は考えながら立ち上がる。優しい目線で乃愛を見下ろしながら無言でポストから水瀬が入れたものを取ってきた。
水瀬が入れて行ったものを見て湯崎は心が熱くなった。
「やっぱり水瀬さんって…」

「…好きだなぁ。」

「な、なにが入ってたの、お兄ちゃん?」
控え目な様子で乃愛が聞いてくる。さすがに少しやりすぎたと反省したようだった。
「秘密っ」
湯崎は大事そうにひときれの小さなメモをそっと机の引き出しに閉まった。


✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
昨日はめちゃくちゃな1日だった。1日のはずなのに湯崎にはものすごく長い時間に感じられた。
「今日からは…練習しないとなぁ…」
そんなことを考えながら湯崎は朝ご飯を食べ、家を出た。

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