第2話

赤い髪の彼女
56
2022/06/05 13:34
「それってつまり、私みたいな何処の馬の骨かも分からないようなやつが目立ってるのが気に入らないってことで大丈夫です?」

セントミラ魔法大学構内の人気のないエリアにて。一人で魔法の試し撃ちが出来る場所を目指していたヴァイスは、突如耳に入った声にほんの少しだけ驚いた。

こんなところに人がいるだなんて。
秘密のお気に入りスポットだったと言うのに、残念だ。

それだけ思ってその場を離れようとしたが、先程の声の主の正体が少し気になってちらりと角から顔を出して様子を伺う。
その先に見えたのは、燃えるような赤い髪をした女性。確かーー今年の新入生、筆記は散々だったが実技の成績がぶっちぎりの一位だった人物だ。ヴァイス自身も十年に一人の逸材だと言われていたが、それに負けずとも劣らない実力だったと言う。

名前は...「ルティア・ミスティック」と言っただろうか。

同学年の生徒と思われる男三人に囲まれながらも全く動じていない様子だ。実際彼女が本気を出したらあの三人が束になってかかっても適わないだろう。

先程の彼女の煽りともとれるーーというか煽りとしか思えない発言によってヒートアップした男たちがルティア・ミスティックをさらに罵倒する。しかし彼女はそんなのどこ吹く風と言った様子で聞き流している。
「早く終わらないかなぁ」としか思ってないような表情だ。

「私なんかにかまってる暇があるなら魔法の練習をしたらどうですか?私なんかよりずっと魔法理論がおできになるんでしょう」
「この...っ!」

重ねられたその言葉にいい加減堪忍袋の緒が切れたらしい。三人のうちの一人が勢いよくその手を振り上げる。...さすがに黙って見ているわけには行かなくなった。

「うわぁっ!?」

バチン!

激しい明滅と鋭い音。
雷がその振り上げられた手を叩き落とす。
一斉にこちらへ向けられた視線が突き刺さって痛い。...しかし、この場でこれ以上騒ぎを起こされるのも癪だったのだ。

「あ、あなたは...」
「ヴァイス・ランドシーカー!」
「...時間の使い方があまりお上手ではないようですね。彼女の言う通り帰ってお勉強された方がよろしいかと」

雷の落ちた手をおさえながら悔しそうに歯を食いしばった男たちは、捨て台詞も吐かずに逃げ出していった。

「怪我は?」
「してませんよぉ」

こちらと目を合わせずにそう答えるルティア・ミスティック。

「...お節介わざわざどうもです。それじゃ」

一度もこちらを見ないまま、さっさと歩き出してしまう。荷物を固く抱きしめながら立ち去る一瞬、ちらりと光って見えた紫色の瞳が視界に残って仕方がなかった。






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