第4話

記憶の泉にて
12
2022/08/15 13:37
「ルティアさんの魔法は我流なのですか?」

すっかり習慣になっている大学構内でのルティアさんとの逢瀬。いつもお互い思い思いに本を読んだり魔法の試し撃ちをして過ごしているだけなのだが、相性がいいのか気を遣う必要がなくて気楽なのだ。ここに来るのをやめないということはきっと彼女も似たようなことを考えているのだろう、そう思って私もこの場所へ通うのをやめることはなかった。──元々自分が先に見つけた場所でもある。
今日もその場所を訪れると既にルティアさんがいて、魔法の試し撃ちをしていた。さすがに大魔法は使えないからここで行うのは決まって基礎魔法の練習だ。…彼女は、炎魔法は群を抜いて得意だが他属性──氷と雷の魔法はあまり得意ではないらしい、使うことは出来るのだが中々魔力の効率化ができないようだった。

「…なんですか、藪から棒にぃ…」
「いえ、ただ気になって」

ものすごく不機嫌そうにこちらを向いたルティアさんは、少し視線を逸らして口を尖らせながら口をもごもごさせている。もう二十歳だろうに、子供っぽいところが抜けない人だ。

「…すごく昔に、教えてくれた人がいたんです。もうずっと会ってないですけれど」
「おや。そうだったのですか」
「…私、戦災孤児で」

その言葉に目を見開いた私を見たルティアさんは、ゆっくりと魔法を覚えた経緯を語ってくれた。

自身も戦災孤児だったというとあるサーカス団の団長に拾ってもらい、そこで育ったこと。
かなり小さい頃に両親を失った為記憶は朧気にしかなく、サーカス団員が家族のようだったこと。
他のメンバーの手伝いしかできずサーカス団員としてなにか覚えようとしていた時に、魔術師の客に出会い魔法を少しだけ教えてもらったこと。
その後は魔法を使ってサーカスの芸をしていたが、ミューセリヌの街に立ち寄った時にとあるダンサーに踊りを教えてもらい炎魔法と踊りを組み合わせてそこそこ有名になったこと──。

「──そしたら、この大学からちゃんと魔法を学んでみないかってお誘いをもらったんです。当時はそれよりサーカスの売り上げをあげたかったから断ろうと思ってたんですけど、…みんながこの機会を逃すのはもったいないってお金を出してくれて。…それでここに来ました」

今は、来てよかったと思ってます。

そう言って話を終わらせたルティアさんは、見たことのない柔らかな笑顔で空の向こうを眺めていた。…旅を続けている「家族」を想っているのだろうか。

「ルティアさんが魔法を覚えたのは、家族のためだったのですね」
「他人に言語化されるとなんか恥ずかしいからやめてもらえますかぁ!?」

せっかく感心していたというのに、いつもの調子に戻ってこちらに噛み付いてくるルティアさん。…残念というか、なんというか。

しかし聞きたいことをまだ聞けていない私は、少し意地悪なカマかけをしてみることにした。

「にしても、あなたに魔法を教えた人とこの大学へ誘った人物は別人だったのですね。…まあ、あの人が教えていたのならあんなに効率の悪い魔力の使い方はさせないか…」
「う」
「おや。どうされました?」
「い…いや…」
「…やっぱり分かっていたんですね?」

もごもご言いながら頑としてこちらと視線を合わせないルティアさん。

「…だ、だってなんか言いづらいじゃないですか…。関係者が大学にいるだなんて聞いていませんでしたし…」
「何も聞かされていなかったというわけですか?」

煮え切らない態度に痺れを切らして、グイッと彼女の顔をのぞき込む。するとルティアさんは紫水晶の瞳をめいっぱい開いて顔を真っ赤にして見せた。そして観念したかのようにこう言ったのだ。

「そ…っ、そうですよぉ!だから私はあの人がヴァイス先輩のお兄さんだったなんて微塵も知らなくて…」
「は?」
「え?」

恐らくそれぞれ違う理由で、呆けた顔のまま動きを止める。たっぷり三十秒くらいそのまま過ごしたあと私は誤解を解くために話しはじめた。

「…ルティアさん、私に兄はいませんよ」
「え、…じゃああの人は」
「父です」
「ええ!?…え!?」

ルティアさんの目がさらに見開かれたまま固定される。…まあ、言いたいことは分かる。確かにあの人はとても五十代には見えない。

「…実は、コールドスリープから目覚めたばっかりだったり?」
「そうだったら説明がつくんですがね…」
「う…嘘だ…」

「いや、あの肌の綺麗さは…」とかなんとか、何やら大ショックを受けている様子のルティアさん。しばらく復活しなさそうなので放置しておくことにする。

とりあえず彼女の様子を見る限り、本当に私の父親は何も言わずにルティアさんをサーカスからスカウトしてこの大学に放り込んだらしい。なんの意図があったのかはよく分からないが、少なくともルティアさん自体には私に対して何か企みがあるわけではないようだ。

(全く…あの人は、全然僕のところへ顔を出さないくせに何をしているのか)

先程のルティアさんにならって青空を眺めてみる。
僕の父親…ゼクス・ランドシーカーは、一体今どこにいるのだろうか。



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