前の話
一覧へ
次の話

第7話

不穏な気配
22
2022/12/07 13:09
ルティアが魔戦艦と共にセントミラを出航する少し前のこと。別行動となったヴァイスは──。



「くそ!どこもかしこも敵だらけじゃねえか!」
「一難去ってまた一難、だな」

連れ去られた商業船のブリッジの中。
脱獄して仲間を助け、私という人質を取れてさあ逃げようと言う時にカイゼルシュルトのヴァルハイトとかち合うとは。なんて運のない人達なんだろうとちょっと可哀想に思えて来た。

「ここはセントミラに加勢しよう!このままセントミラが攻撃されるのを黙って見ているわけにはいかない!」
「しかしこの船じゃあ…ろくな攻撃はできんぞ」

船長の言葉に黙り込んでしまう面々。私は一歩前に出た。

「手伝いましょうか?」

その場の全員の視線が一斉に集まる。

「あなたたちがカイゼルシュルトを叩くなら、今は味方です。それに…セントミラでの戦いでも急所は外していたようですしね」
「…すまねぇ、お客人」

私の申し出に、船長が続けた。

「だが…空中戦は子供には無理だ」
「迷惑はかけませんよ。魔法も少々使えますので」

そう言っても中々首を縦に振らない船長。
いっそ正体を明かしてしまおうかと思ったその時。

「まさかお前…雷光のヴァイスか?」

そう声をかけてきたのは先程までセントミラの傭兵だった男。

「雷光のヴァイス」。
雷魔法を得意とする私にいつしかついた二つ名だ。「紅炎のルティア」と呼ばれるルティアさんと合わせ、セントミラの双璧と呼ばれることもある。

「ハント・ザ・マジックスナイパーに名前を覚えられているとは、身に余る光栄ですね」
「なんだお前ら、有名人なのか?」
「今は一人でも戦力がほしい。手伝ってもらえるのなら…」

話はまとまったようだ──それと同時に、乗組員が敵襲の知らせを叫ぶ。

「みんな、行くぞっ!」

カイゼルシュルトの軍人──、「レイナス」と呼ばれていた男が先陣を切り、後ろにハントさん、ニアさん、船長さんが続く。

「…」

四人の後を追ってエレベーターに乗り込む。おそらくそうしない内にルティアさんと共にセントミラの魔戦艦も出てくることだろう。そうなればバーデルゼンを攻略したばかりで疲弊しているカイゼルシュルト軍はそう長くもたないはず。

「…お手並み拝見と行きましょうか」






「なんだ 恐ろしく強いじゃないかっ!」

戦闘を終えた後。ブリッジに戻った船長が開口一番にそう叫んだ。

「いえ…」

そのあまりの勢いに少し圧される。
しかし、ハント・ザ・マジックスナイパーの腕は知っていたが他の三人も大したものだった。
カイゼルシュルトの軍人──レイナスさんの双剣さばきと、的確に味方を守る反射神経。
船長のベルンハイムさんの爆発物の扱いも優れたものだった。

そして、ニアと言う女性。
驚くべきことに回復の術である施術を高いレベルで使いこなし、パーティーのサポートを完璧につとめていた。
どこかに所属している人間ではないようだが、こんな人材がなぜこのタイミングで現れたのか──。

「セントミラの本隊も出てきているようだぜ」
「これで一気に楽になるな」

ハントさん、レイナスさんが窓の外を見て話している声を聞いてハッとする。

──ルティアさんと私がいる以上、ここの戦闘で負けることはないだろう。けれど、こんな無謀な戦いを挑んでくるということはカイゼルシュルトには何か策があるのだろうか。

「…そうだといいのですが」

そう思って言葉を零す。
すると、ニアさんがこちらを不思議そうな表情で見つめてきた。

「戦力が大きくなって、いいことじゃないの?」
「──戦争というのは、そう簡単にはいかないものですよ」
「ニアちゃんがそう言うなら、きっといいことさ!」

ニアさんに答えた私の言葉に、即座にそう被せてくるハントさん。

「…」
「…」
「…」

ニアさん以外の人間からハントさんに冷たい視線が浴びせられる。
なるほど、この男、そういう人間か。


そして少し考え込んだレイナスさんが、空に展開されている戦艦が大陸から離れすぎているのではないか、と指摘した。それにベルンハイムさんも同調する。

なにか意図がある。
そう思った瞬間──セントミラ本国で突如爆発が起こった。

「セントミラ武器庫 爆発です!」

全員慌ててセントミラの方角を見る。
──被弾したにしては、不自然な場所だ。おそらく内部からやられたのだろう。スパイでも潜り込んでいたのだろうか。

「親分!一隻ものすごい速さで突っ込んできますっ!」
「やろぉー!次から次へと!」
「総員 迎撃準備だ!」

セントミラの状況も気になるが、今は目の前の問題解決が優先だ。私は再び、周りの人間と共に甲板へ向かうのだった。


──外へ出ると、既にかなり近くまで敵船が寄せられていた。向こうの甲板にも誰か出てきているのが見える。…その先頭に立っているガタイの良い男性がこちらを見て目を丸くしていた。

「誰かと思えば レイナスか!」
「ドモラ中尉!」
「なんだ?知り合いか?」

レイナスさんに視線が集まる。…状況を見るに、おそらくレイナスさんの元上司と言ったところだろう。ドモラ中尉と呼ばれた男は、自軍の艦隊が手こずっていた理由が分かり納得していたようだった。

…そしてこの状態、見逃してもらえるわけもない。

「レイナス!覚悟はいいか!」

そう言って見たこともない巨大な盾と戦斧を構えるドモラ中尉。
それを見たレイナスさんが一気に緊張を高めた。

「なんだぁ?偉そうに」
「みんな気をつけろ!今までの敵とは比較にならないぞ!」

──レイナスさんの言う通り、ドモラ中尉は恐ろしいほど強かった。
的確にこちらの攻撃を防いでくる技量。そしてこちらの僅かな隙をついて戦斧の一撃を叩き込んでくる中戦わなくてはいけないプレッシャー。

……その中でほぼ一人で前衛をこなすレイナスさんはとてつもなかった。

カイゼルシュルトは随分と惜しいことをしたものだ。これほどまでの逸材を手放してしまうとは。



近衛の兵士が倒れしばらく戦闘が続いた後、ようやくドモラ中尉が膝をつく。

「ぐっ……なかなかやるな。しかしただでは帰さん!こい、ロナード!」

後ろに下がりながらそう言ったドモラ中尉が呼んだのは、黒い長髪の男。その姿を見たレイナスさんの表情が変わる。

「ロナード……」

押し殺した感情を滲ませながらその名を呼ぶレイナスさん。しかし男は船の縁に立った途端、即座に身の丈ほどあろうかという大剣を中段に構えた。

……聞こえていないのか?

そう思ってロナードと呼ばれた男の様子を伺うと、私は信じられないものを発見した。

彼が着ている黒いインナーの下、そこから見える特徴的な紋様。

「あの痣…まさか……」
「みんな手を出すな!」

そう呟いた瞬間、レイナスさんが声を張り上げた。

「何言ってんだ!おれたちも手伝うぜ!」
「これは俺たちの問題だ…。絶対に手を出すな…」

ハントさんの言葉をはねのけ、双剣を下段に構えて目の前の男を見据えるレイナスさん。

「親愛なる我が友よ…。せめて俺の手で、眠らせてやる」

その言葉を皮切りに、ふたつの船の間で剣戟が繰り広げられる。

が、勝負はすぐに終わった。
レイナスさんの剣には僅かに迷いがあるように見えた。
それをロナードと呼ばれた男の迷いのない──と言うよりは機械的な、全く感情の読み取れない剣さばきに押し負けてしまったのだ。

「はぁ…はぁ…」

肩で呼吸をするレイナスさん。
しかし、ここまで追い詰めておきながらロナードと呼ばれた男は突然手を止めた。

「どうした!なぜ攻撃をやめる!」

表情は全く変わらない。
だが壊れた機械人形のようにぎこちなく剣を構える姿は、まるで友を殺せという命令に全力で抗っているように見えた。

「レイナスにトドメをさせ!」

剣を構えた後も、全身をこわばらせて攻撃に移ろうとしない。揺らぐ視線が偶然私を捉えた。

(──!!)

「どうした!上官の命令が聞けないのか!」

なおも部下を怒鳴りつけるドモラ中尉を尻目に、私は魔法発動準備を始めながら船長さんにアイコンタクトを送る。長く空を旅してきたのだろう彼はすぐさまそれに気が付き、敵に気づかれないように船員たちに指示を出しはじめた。

その時だった。

「ドモラ中尉!」
「こんな時になんだ!」

カイゼルシュルト兵の一人が大慌てで甲板に現れる。そして我々にとっての吉報を口にした。

「セントミラの魔戦艦が一隻、猛スピードで突っ込んできます!」
「なんだとっ!こんな時に!」

このチャンスを逃す手はない。──ルティアさんの駆る魔戦艦に気を取られた敵の脳天めがけ、得意の雷魔法を叩き込む!

「ぐあああっ!」
「今だーっ!」

全速前進。猛スピードで戦線離脱するエアシップ。
敵のヴァルハイトも甲板に赤い髪の魔法使いを乗せた魔戦艦に追い立てられ、我々とは逆方向へ戦線離脱を余儀なくされていた。

一時はどうなることかと思ったが、これで一段落だ──。






「せんぱーーい!行きますよぉーーっ!!」

巨大な魔戦艦の上から聞きなれた声が降ってくる。私はため息をついて両腕を軽く上にかかげた。

「おいおい!いくらなんでもこの高さは…!ってもう飛んでやがるっ!」

くるりと一回転、華麗な宙返りを見せつけてから自由落下。サーカス出身の彼女らしいご帰還だ。



セントミラから赤い閃光弾が放たれ、カイゼルシュルトのヴァルハイトは全て撤退した。一度セントミラまで戻ることとなった我々が出航しようとしたその時、近くまでやってきていた魔戦艦から入電があり、ルティアさんがこちらの船に合流したいと言ってきたのだ。それを了承すると、すぐに小さな商業船の横に魔戦艦がつけられた。

彼女が次に何をするのか予想していた私は船長さんに断って甲板に出る。「連絡橋は出さんでいいのか!?」と慌てる船長さんに「いりません」と答えながら。

…そして、空からルティアさんが降ってきた。

「おおおおおおお!?」
「……」

隣で叫ぶことしか出来ない船長と、満面の笑みでスカイダイビングをするルティアさん。このままでは落ちてきた彼女と私はお互いに頭をかち割りあってこの船の甲板を血に染めてしまうだろう。

だが、そうはならない。

ふわりと心地いいあたたかさが周囲を包む。その瞬間、ルティアさんの落下スピードが急激に落ちた。

そして私の手とルティアさんの手が重なり合う。この柔らかな暖かさがとても好ましい。

「おかえりなさい、ルティアさん」
「ただいま戻りました!ヴァイス先輩っ!」

ゆるやかに私の腕の中に落ちてきた彼女を優しく抱きとめ、ゆっくり地面に下ろしてやる。

「さてと、誘拐犯たちはどこですかぁ?」

私の左腕にしがみつくようにしてその向こう側を覗くルティアさん。一緒に視線を後ろに向けると、船長さんはバツが悪そうに目線を泳がせている。そしてその後ろに、いつの間にかレイナスさん、ニアさん、ハントさんが顔を出していた。

「紹介しましょう。紅炎のルティアこと、ルティア・ミスティック。私と同じセントミラの宮廷魔術師です」
「はじめまして、ニアさんと愉快な誘拐犯さん方ー?」

ルティアさんのからかうような口調に船長さんやレイナスさん、ハントさんがたじろいで……ニアさんは苦笑いをしている。

「さ、誘拐犯さんたちを陛下の前まで連行しましょうかぁ」
「ええっ!?やっぱりおれたち捕まるのか!?」
「フフ、彼女の冗談ですよ」
「鎧投げつけられたの忘れてませんからー!」
「本当かぁ……?」

そんなことを話しながらセントミラへの舵を切る。
カイゼルシュルト王の狂行、ロナードと呼ばれた男の不審な様子、そして服の隙間から見えた特徴的なアザ……。分かっていることだけでも問題は山積みだ。

「まさに乗りかかった船、ってやつですねぇ」

考え込んでいる私の顔をひょっこりと覗き込んでそう笑いかけてくるルティアさん。

「……ええ。あまり大事にならなければいいのですが」

少しずつ大きくなっていくセントミラの浮島を眺めながら、ルティアさんの手を握る。

──嫌な感じだ。
根拠はないが、二年前のセントミラ大戦の時と同じような胸騒ぎを感じる。

誰かの思惑で大きな力が動いている。
そして、世界が歪んでしまっているような──。




プリ小説オーディオドラマ