走って走って走って……。見た光景に私は目を疑った。何が起きているか分からないでその場に立ち尽くす。
変態だ……。
女の人の腕に噛みつく男の人を見つけてしまった。新手の変態だ!
私は鞄からスマホを取り出し110番通報を試みる。
怖い怖い怖い。
変態に見つからないように影に隠れてキーボードを打つ。
「はい、こちら100番です。事故ですか?事件ですか?」淡々とした冷静な声が聞こえてくる。『多分事件です』
一部始終を見ていない私には事故なのか事件なのかわからない。でも、事故ならばあの男の人はすぐ女の人の腕から離れているはず。
もう一度悲鳴があがる。
流石に心配になって影から顔を出す。何が起きているのだろう?女の人をじっと見た。その瞬間私は外へ出たこと、ここへ来たことを後悔した。
血だらけだ。
女の人の腕……ジャケットが赤く染まっていた。
これは警察だけじゃない、救急車も必要だ。119番を打とうとして躊躇う。
まず、あの変態を何とかしなきゃ……!
右足を振り上げて変態に蹴りを入れる。
空手も柔道も合気道も、習っていない。習ったこともない。教わったこともない。そんな私の蹴りだった。そんな蹴りをスパっと変態は避けた。
なにこの変態……。
腕を押さえながら女の人が喘ぐ。
医療の技術もない。なにもできない。無力な自分ができることは、警察を呼ぶことだけだったみたいだ。
たちまち変態は私の胸ぐらを掴んだ。
この変態は……ただの変態じゃない……!
変態と目があった。
人間じゃないくらい、鋭い目付きをしていた。
食事……?
まさか、女の人を食べようとしてないよね?
え、待って?私なにも話してないんだけど。
え、怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
は?鬼?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。