携帯ショップの待ち時間はものすごく長い。私と炭治郎くんと善逸くんの3人でショップにやって来た。本当は9時頃にはショップにつくことになっていたんだけれど、誰が私に付き添うかで騒いで喧嘩になって殴りあいになって(主に伊之助くんの暴走)結果、暴れに暴れまくった伊之助くんがカナヲちゃんのパシリとなって家事をすることになった。そして只今11時。ついたのは10時だけれど、整理券をもらってから1時間もかかってる。
『こちらでお待ちください』と親切に美人のお姉さんがつれてきてくれたソファーはふかふかでドリンクも飲み放題だからあまり文句は言えないけど。
テーブルを囲って私の隣に善逸くん。私の向かいに炭治郎くんが座っている。
今、ものすごく気まずいです。だって、だって、善逸くんと炭治郎くん……睨み合ってるんだもん!!
ドリンクバーでとってきたココアをストローでチューと吸いながら2人の顔を覗く。うん、怖いね。
せ、せっかくだからお話ししようよ。待ち時間3時間ほどって書いてたじゃん?今日日曜日だから混んでいるんだよ。カフェみたいなスペースで待たせてもらっているんだからありがたくお話ししようよ。後2時間あるよ?その間もこんな風に過ごすの?まぁ2人はそれでいいのかもだけど、私が困るよ?気まずいよ?
そ、そうだ。今ここで聞いてしまおう。昨日からずっとずっと気になっていたことを。
善逸くんがアワアワとしている。もしかして聞いちゃダメだった感じ?で、でも……鬼に私、スマホ潰されたんだよ?私にも質問する権利はあるはず……。
炭治郎くんに口を塞がれる。……なにこの状況。
炭治郎くんから溢れだす圧。圧に押されて私は口を閉じる。暫く流れる沈黙にどうしていいかわからなくなる。
私たち3人は店員さんに一言声をかけて外に出た。外に置かれたベンチに並んで腰かけた。右に炭治郎くん。左に善逸くん。真ん中に私。
善逸くんはずっと俯いたまま、私の左手をそっと握った。善逸くんの手は暖かくて気まずいこの空気から少しだけ私を救ってくれるような感覚になった。
ぼそぼそと炭治郎くんは言う。
もちろん、『鬼』という単語は知っていた。日本昔話の桃太郎や一寸法師、泣いた赤鬼みたいに童話の中に出てきたり、節分なんていう行事だってある。『鬼』というものの存在は一般常識的には架空のもので、私も架空のものとして知っていたから、今のこの状況にものすごく驚いている。
本当に、本当に、エキセントリックな話だと思っている。いまだに信じられないんだもの。そもそもそんな危険生物がいるのなら危険生物図鑑に載せておいてよ。というか、小学校のときに教えてほしいよね。
少し訳がわからなくなってきたところで善逸くんが口を挟んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。