長きに渡り開催されているこの文化祭。ようやく自分達の企画した出し物の時間になり、一日目の終盤にも差し掛かっているこの場には期待とともに多くの人が集まっている。
そして、俺はここが今日最大の重要な場面。
俺は、
──────ここで優太先生に、告白されたい。
________まあ確かに、普通に考えて無理な話だ。もしここで堂々と言える状況なら俺がとっくに言いふらしてる。
それくらい好きだから、だからこそこうして無理な望みをかけてしまうのだ。
あ〜、いいなぁ〜あの人たち。
────眺めているのは今ステージに立っている男女2人。男の方が大きな声で気持ちを伝え、女性に向かって手を差し出し頭を下げている。そして後に女子生徒はその手を取り、案の定この場は大盛り上がりとなった。この企画1番の醍醐味だ。
俺もあんな風に祝福されたいなぁ〜。笑
_______教師と生徒。この関係な以上、ああして祝福される事は少ない。むしろ批判されてしまう可能性も大いにある訳だ。
──────主に進行を進めてくれるのは他のクラスメイトで、俺達はその盛り上げ役。俺にとっての進展の見込みはないことに退屈さを感じ、ちょっと抜け出そうかと悩んでいた時。彪雅が急に声を上げた。
まさかと思ってステージを見ると、照明に照らされるステージ上には優太先生の姿があった。
一気に気持ちが浮上し鼓動が速くなる。
……………もしかしたら、なんて。
────────だが。
やっぱり現実は甘くなかったようだ。
──────優太先生は、告白する目的でステージにいたんじゃない。告白される側の立ち位置だった。
そしてそれも、女子生徒に。
──────分かってる。別に優太先生が他の人に告白する訳じゃないんだから、ここまで嫉妬しなくても良いって。
でも、だったら俺でも良かったじゃんか。
男同士だというのが大きな壁を隔てているのは分かっているけどやっぱり嫌で、他の生徒がこうして盛り上がっているのを見ていたくなくて、姿を消すようにしてそのままこの場を抜けた。
─────────────────────────
うちのクラスの企画中も、他の場所で行われている物は沢山ある。体育館を出て、行くあてもなく周りをうろうろとしていると。
呼び込みに来たのは3年生の先輩。
看板を見る限り、この店はメイド喫茶なるものなんだろう。現にめちゃめちゃメイド服だし、この人達。
正直全くの興味は無いけれど、しばらく行くあてもなかったところだし、……………どうせ先生いないし。
半ばやけくそになって、首を縦に振った。
─────────────────────────
席に通されると、急に始まった恋愛相談。
だけど、たまには第三者の意見を聞いてみたいという気持ちもあったので名前は伏せて話すことにした。
先輩方の恋愛経験に圧倒されつつも、元気づけてもらう気持ちで聞いていた。
──────しばらくして、どこからか微かに聞こえてきたのは告白ステージの話題。もう全てのプログラムを終えたところらしい。
最初は何となく、どんな感想かな〜みたいな気持ちで軽く耳を傾けてたんだけど。
________ここからはもう、こちらの会話にしか意識が向かなかった。
背後で繰り広げられる会話に必死についていこうとその意味を噛み砕くも、いまいち理解が追いつかない。
恐らく今の話題は、先程まで俺が返事を聞かずに逃げてきた優太先生の告白ステージでの事だろう。
_________ただ、キュンキュンしたってなに?凄かったって何?
………………まさか先生、OKとかしてないよね?そんな訳ないよね?だって両思いなの、俺のはず…なのに。、
だけど、もし断ってたらキュンとかしないだろ普通に。
あの空気感に断れなかった、とか?
ここじゃダメだ、と溢れそうになる涙を必死にこらえる。
嫌だ、優太先生。
他の人んとこ、行かないで。____________
想いが溢れこの場の喧騒に紛れるようにして彼の名前を呟いた時、目の前に現れたのは本物の優太先生。
──────急に先生に手を引かれ、理解がまるで追いつかないまま慌てて先輩方にお礼を言って教室を出た。
─────────────────────────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。