今日はバレンタイン当日。ついにやってきた。
今日は心無しか通学時の男女率が多かったようなそうでもないような。
少なくとも、周りの女子たちは皆色めき立っていた。
そして案の定、朝クラスへ向かうと机の上には沢山のお菓子が積まれている。そう言えば俺モテるんだったな、今年は作る側としての気持ちが大きすぎてすっかりと忘れていた。
もちろん、彪雅とあつきの机の上にも沢山の袋が。
皆タイプ違うけど、それがいい感じに分散してて何気隠れファンが多いんだよな。
なんなら、俺が彪雅やあつきと仲良いからって、2人目当てで俺を頼ってくる奴もいる。
俺以外目当てで俺に近づくなんて、2人に会うまではありえなくて初めは驚愕したのを覚えているが。
______そう、俺の今年の1番の目的は貰うことじゃない。優太先生にあげることだ。
前々から練習を重ね昨日死ぬ気で作ったマカロンは、あの後綺麗にラッピングを施してしまっておいた。今日はしっかりそれを持ってきたのだが、これをいつ渡そうか。
彪雅がひょいと指と視線を動かした先を見るとそこには、お目当ての優太先生が。だが、一瞬それに気付けない程に周りには沢山の女子も群がっていた。
_______っあ、そうだ、忘れてた。
優太先生も、めっちゃモテるじゃん。
他の女子たちに見事に先を越され嘆いていたのだが、優太先生の姿をぼーっと眺めていると気付く。
________なんか、皆クオリティ高くね?
女子皆が持ち寄っているものを1つ1つ見ていっても、クッキーやブラウニー、ケーキなどのその1つ1つの見た目と、細部まで丁寧なラッピングのクオリティが尋常じゃない。
あれ、そしたらオレのこれってどうなんだ??
恐らくみんな沢山練習をして、今日までに自信を持って渡せる素晴らしいクオリティのお菓子があるはずだ。
だけど、俺のやつは?
まだ納得のいくクオリティじゃないし、味は美味しいけど女子たちに比べたらそんなのわかんない。
まず、ほんとにマカロンで良かったのか??
どんどんネガティブに考えてしまって、その沼を抜け出せなくなった。
________ぁ、俺、無理かも。
やっぱこれは渡せないわ。渡すなら、もっと自信持って完成できたやつにしないと。
今日の放課後だったらまだ間に合うかな??取り敢えず、もう1回挑戦しよう。
そう脳内で完結させて、手に持っていたラッピングの施された袋を深くかばんにしまいこんだ。
昨日冷蔵庫に入れて帰った沢山のマカロン(失敗作)たちはタッパーに入れて、クラスの皆にあげた。
味は美味しいらしく、案外好評だったようで良かった。あとは見た目だけ、希望が見えたからやっぱ頑張ろ。
そして、いくら作り直すとは言ってもこのまま放課後まで優太先生に何もあげないのはなぁと思い、休み時間に急いでコンビニで買ったお菓子をいくつか上げることにした。
優太先生が帰っちゃう前に、完成できるかな。今日は彪雅は呼んでないから、最初から最後まで完全に1人での制作だ。俺は覚悟を決め彪雅の知識が詰まった分厚いメモ帳を取りだして、汚れた手でなんとかページをめくり探りながら奮闘することにしたのだった。
─────────────────────────
何度も失敗して作り直しているのにも関わらず、一向に工程を覚えられず毎回丁寧にレシピを確認しながら作る。やっぱ俺お菓子作り向いてないんだな。
ただ、確実に腕は上がってきている。
最初は均等でも綺麗な丸の形でも無かった絞り袋で生地を絞り出す工程だが、何度もやったおかげでコツをつかみ今ではもう店に出しても違和感無いくらいのものにはなっていた。
まだ実力が拙い工程は残っているから、今度はそっちを練習しなければ。
作り始めてから恐らく1時間ほど。
第1陣が出来上がるも、正直昨日出来たものとあまり変わらない見た目だった。これじゃあ意味が無い。
味は美味しいけど、まさかそれすらも食べ過ぎて麻痺したとかは無いよな?ちゃんと美味しいよね?
誰かに食べて欲しいと叫んだら、それがまさか優太先生によって叶えられてしまった様で。
急に乗り込んできた優太先生に困惑しきっているが、それよりもなによりも一大事なのは、先生が俺の作ったマカロンを食べている事だ。
まだ完成していない上それは失敗作なのに、そこにあるものを全部食べる勢いで次々に先生の口に入っていく。誰かに食べて欲しいとは望んだけど、それは優太先生を除く誰かであった。優太先生は今じゃない。
てかなんで居んの?
先程まで何を言っても食べる事を辞め無かった先生の手がやっと止まったと思いきや、今度は体の向きをこちらへと変え、そのまま俺の作業の手を止められる。
じっと見つめてくる先生の視線から逃れられなくて、ただ見つめ返すことしか出来ない。先生これ、距離近すぎんの気付いてる?
先生は拗ねたように視線を逸らすも、答えないと返してくれない雰囲気。
料理が下手で失敗ばかりだったからなんて恥ずかしくて言いたくないけど、もうしょうがない。
先生にあげていた他の人達のクオリティには頑張っても及ばないかもしれないけれど、それでも負けたくないという気持ちだけでここまで頑張った。
本当は先生の周りに群がりが出来る前に、一番に渡したかったけれど。
それは無理だから、せっかくだったら最高クオリティのものを先生に渡したいのだ。
優太先生がまだ誰からも貰ってないって?
あんなに沢山人がいたのに、それを俺のために、?
あぁ、もう優太先生って、なんでこんなにかっこいいんだろう。_________
隣にゆうた先生がいるという事実により気合いが入った。
もう一回、次こそ成功してみせる。
─────────────────────────
あれから何度も失敗した事で得たポイントとコツをしっかり抑えて、最後まで手抜かりなく丁寧に作り上げた。まるで我が子を見送る様な気持ちで、クッキングシートに形どったものをオーブンに入れて加熱し始めてから約数分。
やがて焼き上がりを知らせる音がピピッと鳴り、緊張しながら意を決して取っ手に触れた。
そして、あとはオーブンを開けて出来を確認するのみ。
その出来映えはいかに。____________
そっとレンジの蓋を開けた瞬間、溢れてくるようにふわっと甘い匂いが鼻へ入ってきた。
期待を大きくしながら確認するとその出来はなんと。
_______ふっくらとした綺麗な山なりの膨らみに、均等に出ているピエ。そしてムラも割れも無い綺麗な焼け目。
間違いなく過去最高の出来だった。
後はもう、冷やしたガナッシュを絞り出して挟むだけ。本当にここまで長かった、。
無事に完成したは良いが、まだ最後の仕上げが終わっていない。
棚に閉まっておいた箱を取り出し、出来上がったマカロンを一つ一つ丁寧にしまいこんでいく。
そう、しっかりラッピングをして渡さなければ、バレンタインじゃないから。
ちゃんと先生にあげられて良かった。
そんなこんなで無事に終わったバレンタイン。期待しといて、なんて言われたらそんなん浮かれちゃうじゃんか。
毎日毎日、優太先生への好きが増すばかり。____
ほんと、こんな幸せで良いのだろうか。
────────とまあ、そんな感じで一生浮かれたまま3月14日、やってきたホワイトデー。
優太先生に呼び出されるとはいこれ、と渡されたのはピアスだった。めっちゃめちゃにかっこ良くて。もう明日からこれしか付けない。
指輪、ピアス…。どんどんと優太先生がくれたものに染まっていく俺は、もう優太先生から抜け出すことなんて不可能だ。
だから、優太先生も責任取ってねなんて言わないけれど。
来年はどうしようかな、なんてもう1年後のバレンタインの事を考えながら過ごす日々であった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。