第49話

バレンタイン【後編】
2,614
2023/04/10 04:59







やまと
やまと
おはよー、…って、



















やまと
やまと
すご、
 









ひゅうが
ひゅうが
おーおはよーやまと
ひゅうが
ひゅうが
相変わらずモテてんな
やまと
やまと
…………いや、彪雅もね?









今日はバレンタイン当日。ついにやってきた。

今日は心無しか通学時の男女率が多かったようなそうでもないような。
少なくとも、周りの女子たちは皆色めき立っていた。


そして案の定、朝クラスへ向かうと机の上には沢山のお菓子が積まれている。そう言えば俺モテるんだったな、今年は作る側としての気持ちが大きすぎてすっかりと忘れていた。

もちろん、彪雅とあつきの机の上にも沢山の袋が。
皆タイプ違うけど、それがいい感じに分散してて何気隠れファンが多いんだよな。
なんなら、俺が彪雅やあつきと仲良いからって、2人目当てで俺を頼ってくる奴もいる。
俺以外目当てで俺に近づくなんて、2人に会うまではありえなくて初めは驚愕したのを覚えているが。















ひゅうが
ひゅうが
…てか、ちゃんと持ってきたか?
やまと
やまと
…うん、持ってきた
ひゅうが
ひゅうが
そーか、じゃあ頑張れよー










______そう、俺の今年の1番の目的は貰うことじゃない。優太先生にあげることだ。





前々から練習を重ね昨日死ぬ気で作ったマカロンは、あの後綺麗にラッピングを施してしまっておいた。今日はしっかりそれを持ってきたのだが、これをいつ渡そうか。












やまと
やまと
いつ渡そー、
ひゅうが
ひゅうが
…結構頑張らないと今日渡せないかもな?
やまと
やまと
なんで??
ひゅうが
ひゅうが
いやだって、見ろあれ
やまと
やまと
??









彪雅がひょいと指と視線を動かした先を見るとそこには、お目当ての優太先生が。だが、一瞬それに気付けない程に周りには沢山の女子も群がっていた。











_______っあ、そうだ、忘れてた。










優太先生も、めっちゃモテるじゃん。
























やまと
やまと
っねぇまって、どーしよやばくない?
ひゅうが
ひゅうが
…あれに入るのはムズいな、笑
やまと
やまと
さいあく1番に渡したかったのに!
ひゅうが
ひゅうが
これはドンマイだな、






他の女子たちに見事に先を越され嘆いていたのだが、優太先生の姿をぼーっと眺めていると気付く。
























________なんか、皆クオリティ高くね?




























やまと
やまと
まじ、?






女子皆が持ち寄っているものを1つ1つ見ていっても、クッキーやブラウニー、ケーキなどのその1つ1つの見た目と、細部まで丁寧なラッピングのクオリティが尋常じゃない。












あれ、そしたらオレのこれってどうなんだ??

















やまと
やまと
…………。




恐らくみんな沢山練習をして、今日までに自信を持って渡せる素晴らしいクオリティのお菓子があるはずだ。


だけど、俺のやつは?
まだ納得のいくクオリティじゃないし、味は美味しいけど女子たちに比べたらそんなのわかんない。
まず、ほんとにマカロンで良かったのか??


どんどんネガティブに考えてしまって、その沼を抜け出せなくなった。













________ぁ、俺、無理かも。











やっぱこれは渡せないわ。渡すなら、もっと自信持って完成できたやつにしないと。
今日の放課後だったらまだ間に合うかな??取り敢えず、もう1回挑戦しよう。

そう脳内で完結させて、手に持っていたラッピングの施された袋を深くかばんにしまいこんだ。



































やまと
やまと
…あ、みんなー、これ昨日作って余ったから食べていーよー
見た目気にしたやつ負けね
クラスメイト
クラスメイト
っえぇーよっしゃ!てかやまと作ったの凄くね!?
クラスメイト
クラスメイト
えーなにそれ普通に食べたい!美味しそうじゃん!?
ひゅうが
ひゅうが
俺も食うー
あむぎり
あむぎり
俺も!!
やまと
やまと
どうぞー!





昨日冷蔵庫に入れて帰った沢山のマカロン(失敗作)たちはタッパーに入れて、クラスの皆にあげた。
味は美味しいらしく、案外好評だったようで良かった。あとは見た目だけ、希望が見えたからやっぱ頑張ろ。


そして、いくら作り直すとは言ってもこのまま放課後まで優太先生に何もあげないのはなぁと思い、休み時間に急いでコンビニで買ったお菓子をいくつか上げることにした。
















やまと
やまと
せんせー!ハッピーバレンタイン!
ゆうた
ゆうた
おぉ〜やまと、今日全然会えなくて探してたわ
やまと
やまと
これどうぞ!!
ゆうた
ゆうた
おぉ〜って、……。












ゆうた
ゆうた
…キットカットじゃん。
やまと
やまと
はい、ちゃんと裏も見てくださいね!
ゆうた
ゆうた
裏?


























ゆうた
ゆうた
……あ、好き?って書いてある。笑
やまと
やまと
はい!そういう事です!じゃあ俺放課後は予定あるので!!!
ゆうた
ゆうた
…え、











優太先生が帰っちゃう前に、完成できるかな。今日は彪雅は呼んでないから、最初から最後まで完全に1人での制作だ。俺は覚悟を決め彪雅の知識が詰まった分厚いメモ帳を取りだして、汚れた手でなんとかページをめくり探りながら奮闘することにしたのだった。















─────────────────────────
































やまと
やまと
…ここでこーして…、えっと次なんだっけ?







何度も失敗して作り直しているのにも関わらず、一向に工程を覚えられず毎回丁寧にレシピを確認しながら作る。やっぱ俺お菓子作り向いてないんだな。



ただ、確実に腕は上がってきている。
最初は均等でも綺麗な丸の形でも無かった絞り袋で生地を絞り出す工程だが、何度もやったおかげでコツをつかみ今ではもう店に出しても違和感無いくらいのものにはなっていた。
まだ実力が拙い工程は残っているから、今度はそっちを練習しなければ。























やまと
やまと
…うーん、もっかい、













作り始めてから恐らく1時間ほど。
第1陣が出来上がるも、正直昨日出来たものとあまり変わらない見た目だった。これじゃあ意味が無い。

味は美味しいけど、まさかそれすらも食べ過ぎて麻痺したとかは無いよな?ちゃんと美味しいよね?



















やまと
やまと
っあぁ〜もう分からん!
やまと
やまと
誰か食べてー!








ゆうた
ゆうた
………うま、


























やまと
やまと
っ、は!?
やまと
やまと
せんせ!?
ゆうた
ゆうた
っいやうるさ、笑
なんでそんな騒いでんだよ?
やまと
やまと
いやこっちのセリフですよ!?
てか、逆になんでそんなに平然としてるんですか!
ゆうた
ゆうた
…いや、なんかいい匂いしたから
やまと
やまと
っいや、……っ、てかそれ!
やまと
やまと
(失敗したやつ、!!)















誰かに食べて欲しいと叫んだら、それがまさか優太先生によって叶えられてしまった様で。


急に乗り込んできた優太先生に困惑しきっているが、それよりもなによりも一大事なのは、先生が俺の作ったマカロンを食べている事だ。




まだ完成していない上それは失敗作なのに、そこにあるものを全部食べる勢いで次々に先生の口に入っていく。誰かに食べて欲しいとは望んだけど、それは優太先生を除く誰かであった。優太先生は今じゃない。
てかなんで居んの?



















やまと
やまと
…っちょ、せんせ






























ゆうた
ゆうた
……俺には市販のお菓子のくせになー。


















やまと
やまと
………え?
















ゆうた
ゆうた
…これ、誰に作ってんの?























やまと
やまと
っえ、…と
ゆうた
ゆうた
俺貰ってないけど。
やまと
やまと
っいや、あげたじゃないですか!
ゆうた
ゆうた
貰ってないよ、キットカットしか
やまと
やまと
っあげてるじゃん!
それがバレンタインですよ!ほら、裏にも!書いたじゃないですか、
やまと
やまと
ってか、そう言ってる間にもどんどん食べんの辞めてくださいよ!?
ゆうた
ゆうた
………。
やまと
やまと
せんせ!

ゆうた
ゆうた
これだけで、言い訳なくね?
やまと
やまと
…え、?















ゆうた
ゆうた
っあのさぁ、もっかい聞くけど

ゆうた
ゆうた
誰に手作りしてんの?俺にはお菓子だったくせに。







先程まで何を言っても食べる事を辞め無かった先生の手がやっと止まったと思いきや、今度は体の向きをこちらへと変え、そのまま俺の作業の手を止められる。

じっと見つめてくる先生の視線から逃れられなくて、ただ見つめ返すことしか出来ない。先生これ、距離近すぎんの気付いてる?





やまと
やまと
っいや、あの
ゆうた
ゆうた
俺、やまとが放課後毎日頑張って作ってんの知ってたから。
それでちょっと期待してたら、キットカットって。
ゆうた
ゆうた
しかもその手作りクラスメイトには上げてたよな??なんで俺だけくんないの
やまと
やまと
えと、それは






先生は拗ねたように視線を逸らすも、答えないと返してくれない雰囲気。

料理が下手で失敗ばかりだったからなんて恥ずかしくて言いたくないけど、もうしょうがない。


























やまと
やまと
良いの、出来なかったから。
ゆうた
ゆうた
……、
やまと
やまと
せんせーだけに、あげようとしたけど難しくて、なかなか上手くいかなくて
やまと
やまと
何回もやり直したんだけど結局無理だったから…。
失敗したやつは先生にあげられないじゃんか、
ゆうた
ゆうた
…………。



ゆうた
ゆうた
別に見た目なんて気にしないけど…、
てかめっちゃ美味かったし。
ゆうた
ゆうた
これが失敗なわけなくね、?

やまと
やまと
いーや、膨らみも弱いし、まだちゃんと
ピエがでてないし、なめらかさが足りない!


ゆうた
ゆうた
…、ぴえ、?
やまと
やまと
ガナッシュ作りももう一息だし、!!
ゆうた
ゆうた
ガナ、?…ごめん、用語ばっかりで分からんわ、笑
やまと
やまと
でもそんなことより!!!
やまと
やまと
……1番は、先生にあげてた他の女の人達がみんなクオリティ高くて、負けんのやなの!!







ゆうた
ゆうた
…………ぁ、そゆこと、?





やまと
やまと
ほんとは、1番に渡したかったし、。
ゆうた
ゆうた
…………。







先生にあげていた他の人達のクオリティには頑張っても及ばないかもしれないけれど、それでも負けたくないという気持ちだけでここまで頑張った。
本当は先生の周りに群がりが出来る前に、一番に渡したかったけれど。
それは無理だから、せっかくだったら最高クオリティのものを先生に渡したいのだ。























ゆうた
ゆうた
…そっか、







ゆうた
ゆうた
………んじゃあ、頂戴?
やまと
やまと
っまだ完成してない

ゆうた
ゆうた
ん、俺ここで待ってるから。1番に渡したいんでしょ?
やまと
やまと
…いや、でもそれはもう無理じゃん
ゆうた
ゆうた
無理じゃないよ、俺まだ誰からも貰ってないし。
やまと
やまと
…、え?






ゆうた
ゆうた
俺も、お前から1番に貰いたい。
待ってたよ。
やまと
やまと
っ、…せんせ、!





















優太先生がまだ誰からも貰ってないって?
あんなに沢山人がいたのに、それを俺のために、?







あぁ、もう優太先生って、なんでこんなにかっこいいんだろう。_________







































やまと
やまと
…大好きです、
ゆうた
ゆうた
ん、笑








隣にゆうた先生がいるという事実により気合いが入った。

もう一回、次こそ成功してみせる。


























─────────────────────────





























やまと
やまと
………。
やまと
やまと
どうだ、、











あれから何度も失敗した事で得たポイントとコツをしっかり抑えて、最後まで手抜かりなく丁寧に作り上げた。まるで我が子を見送る様な気持ちで、クッキングシートに形どったものをオーブンに入れて加熱し始めてから約数分。


やがて焼き上がりを知らせる音がピピッと鳴り、緊張しながら意を決して取っ手に触れた。
そして、あとはオーブンを開けて出来を確認するのみ。






その出来映えはいかに。____________











































やまと
やまと
っ、…
やまと
やまと
っ出来たぁぁぁぁ!!!
ゆうた
ゆうた
っおぉ!めっちゃ綺麗。
やまと
やまと
やった、やった、遂に完成した…。
ゆうた
ゆうた
……すげぇわ。
お疲れ様、ありがとなやまと。
やまと
やまと
っはい、、










そっとレンジの蓋を開けた瞬間、溢れてくるようにふわっと甘い匂いが鼻へ入ってきた。

期待を大きくしながら確認するとその出来はなんと。






_______ふっくらとした綺麗な山なりの膨らみに、均等に出ているピエ。そしてムラも割れも無い綺麗な焼け目。








間違いなく過去最高の出来だった。



後はもう、冷やしたガナッシュを絞り出して挟むだけ。本当にここまで長かった、。



















やまと
やまと
………っ良かった、、
ゆうた
ゆうた
…めっちゃ美味そう。食べていい?
やまと
やまと
っあ!まだ駄目です!
ゆうた
ゆうた
…え?笑









無事に完成したは良いが、まだ最後の仕上げが終わっていない。

棚に閉まっておいた箱を取り出し、出来上がったマカロンを一つ一つ丁寧にしまいこんでいく。


そう、しっかりラッピングをして渡さなければ、バレンタインじゃないから。


















やまと
やまと
っよし、出来た、
やまと
やまと
…はい、先生。
ゆうた
ゆうた
…ありがと、大切に食べるわ。笑















ゆうた
ゆうた
…………お返し、期待してて。
やまと
やまと
っはい、…



























ちゃんと先生にあげられて良かった。



そんなこんなで無事に終わったバレンタイン。期待しといて、なんて言われたらそんなん浮かれちゃうじゃんか。




毎日毎日、優太先生への好きが増すばかり。____
ほんと、こんな幸せで良いのだろうか。



















────────とまあ、そんな感じで一生浮かれたまま3月14日、やってきたホワイトデー。


優太先生に呼び出されるとはいこれ、と渡されたのはピアスだった。めっちゃめちゃにかっこ良くて。もう明日からこれしか付けない。

指輪、ピアス…。どんどんと優太先生がくれたものに染まっていく俺は、もう優太先生から抜け出すことなんて不可能だ。
だから、優太先生も責任取ってねなんて言わないけれど。









来年はどうしようかな、なんてもう1年後のバレンタインの事を考えながら過ごす日々であった。

























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