今日は朝、すぐに身支度を済ませて昨日佐久夜と会った場所へと所に向かった。
そうして昨日と同じ古い桜の木がある場所に着くと暖かな春風に乗せられて花のような甘い、いい香りがしてきた。
(なんだろう?)
佐久夜は僕の問いには答えずに話を続けた。
大嫌いなこの名前をそんなふうに言われるは胸が締め付けられるようで苦しかった。
そして沈黙の末、僕は言葉を振り絞った。
この時僕はきっと、酷い顔をしていただろう。
でも、佐久夜は
そう言ってくれて
佐久夜はとても穏やかで優しく、少し寂しそうに笑った。
僕は思わず歯を食いしばり、
一気に早口で捲し立てるようにそう吐き捨てた。
僕は、何度も見た。
僕を見ながら、
「可愛らしいお名前ですね」と苦笑するのを
そういうと佐久夜は僕の両手を包み込むようにして握った。
鼻の奥がツーンとした。
僕がその手を振り払おうとすると佐久夜は握っている手に力を入れ、自分の額に当てた。
その言葉を聞いて何故か目に涙が溢れてきて、佐久夜に見らめまいと慌てて下を向いた。
僕は今度こそ佐久夜の手を振り払うとベンチの上に置いてあった鞄をひったくる様に掴んで、走り出した。
佐久夜は止めなかった。
止めてくれなかった。
僕は心のどこかで、佐久夜が「行かないで」と、止めてくれることを期待していた。
僕は自分が情けなかった。許せなかった。
佐久夜がこんな僕に「また」と言ってくれたから、優しく、普通に接してくれるからと自分を必要としてくれるのではないか、大切にしてくれるのではないかと期待していた自分に。
所詮、僕はゴミクズと同じくらいの人間なんだ。
こんな事を他人に期待していいような人間じゃない。
僕は、家に帰ると、壊れた様に泣き喚いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。