私にはおかしな記憶がある。
経験していないはずなのに確かにその場に私はいて、それを見ている。
けれど、その記憶は正しいものではなかった。
何度も何度も私は『それ』を感じた。
新しい記憶が流れ込んでくる。
誰かに作りかえられた新たな記憶が。
ある日からそれは一定の間隔を置いて始まった。
けれど、今回は間隔が少し長い。
いつもであれば2、3日。
長くて1、2週間だった。
何かが変わったのだろうか。
それはこのおかしな人生を変えるものなのだろうか。
もしそうなのであれば……
私には家族がいない。
物心付く前に捨てられていたのだそう。
その当時私は幾つもの病を患っていてその後遺症で記憶が無くなってしまっているのだそう。
だから、もちろん親の顔なんて覚えていない。
私はある施設で育った。
高い塀に囲われた箱庭…。
私はそこで問題児として育った。
普通の子供であればおもちゃで遊ぶものを私は子供たちに武力行使の方法を教えていた。
大人たちにはそれが面白くなかったらしい。
いつも何かと文句をつけられていた。
しかしそんな私もいつまでも施設にいる訳にもいかなかった。
施設ではその子供に見合った引き取り手が見つかると、施設を出ていくことになっていた。
私も例外ではなかった。
正直施設に思い入れもなかったのでどこでもいいかなと思っていた。
けれど少しだけ、この退屈な生活から抜け出すことに小さな期待があった。
ここから出れるならどんな大人でもいいかなとか思っていたけど、まさかあんな大人に当たるとは…
施設の大人に連れられて行った場所は、1軒の平屋だった。
そこには、シワのある老人男性がいた。
この人が私の引き取り手らしい。
何か話していたので私はすこし探検することにした。
すると2人の少年と1人の少女が道場らしき場所にいるのを見つけた。
あちらもこちらに気づいたようで、金髪の少年が1人近いてきた。
これが私の運命を変えることになるとは当時の私は思っていなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!