なんとも苦しい言い訳をしているのには意味があるのだろう…。
その涙の理由が知りたくて仕方がなかったが、これ以上詮索する必要もないと思い俺は黙り込んだ。
ドギョムがそう言うとあなたは無理した笑顔を見せながら、料理を口にした。
あなたの無理して作った作り笑いは俺の心を苦しくさせる一方だった。
そのまま皆で宿舎に戻ると、彼女は「仕事をしたいからリビングで作業をさせて欲しい」と言ってきた。
俺らは断る理由もなく承諾したが、気がかりで仕方なかった。
深夜2時過ぎ頃、他のメンバーが寝静まった頃に俺はどうしても気になって、少しリビングを覗いてみることにした。
あなたはリビングの机に突っ伏して寝てしまっていた。
パソコンは動画が流しっぱなしになっており、また彼女の手元には手書きで書かれた数枚の楽譜が無造作に散らばっていた。
楽譜に目をやると曲にはなっておらず、フレーズで書き出されているようだった。
俺は楽譜を手に取り、そこに書かれているメロディーを口ずさんだ。
繊細なフレーズででも何処か力強さを感じるミディアムバラードに合いそうな綺麗なメロディーラインだった。
俺では作れない、彼女だから生み出せる。
そう感じさせられるようなフレーズだった。
あなたが目を覚ましたのかと思ってヒヤリとしたが、体制を変えただけだった。
さっきまで辛そうな顔をしていたが、寝ている彼女の、表情は柔らかかった。
無意識に俺はそっとあなたの髪の毛に触れていた。
指通りの良い綺麗な髪の毛をなぞる様に自分の指に絡めていく。
何やってるんだ俺は…と急に恥ずかしくなって、彼女にブランケットだけかけてリビングを去ろうとした時だった。
ジスヒョンに見られてたなんて…最悪だ。
どこから見られてた?
ジスヒョンはニヤニヤしている。
新しいのからおもちゃを見つけた子供みたいな無邪気な顔をしている。
いじられるのは面倒だ。
気をつけようと思ったのと同時に、俺はあなたが好きなんだろうな…とこの気持ちが確信に近づいていくのが感じられた。
あぁ、きっと俺はあなたが好きなんだろうな…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!