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第1話

プロローグ
935
2020/05/29 15:12
あなた

部長!ちょっと待ってくださいよ!!

若草 敦(上司)
若草 敦(上司)
決まったことだ。
仕方ないだろう?お前はプロジェクトから外されたんだ。諦めろ。
あなた

いきなりそんなことありえますか!?知ってますよね?私が見つけ出して、あの子達を、ここまで育ててきたこと!!
なのに何故ですか!?何故デビューが決まった途端、外されないといけないんですか!!ディレクターとしてあの子達を支えていくって決めていたのに!!

若草 敦(上司)
若草 敦(上司)
決まったことだと言っているだろう?君にはまだ早いんだよ!この子達のディレクターは務まらない。分かったら次のプロジェクトに精を出すんだな。
そう言い私の上司、若草部長はその場を後にした。
部長の後ろ姿を見届けながら私はひたすら泣くのを我慢していた。

私はとあるレコード会社でディレクターをしている。
音楽が大好きで憧れたレコード会社。日本ではかなり倍率が高い職業でもあると思う。
とてもハードな仕事ではあるが、アーティスト達が自分の力で育っていく姿を見てやりがいを感じていた事には違いない。

今回新しくプロデュースを任されようとしていたプロジェクトも私にとってはとてつもなく大事な仕事だった。上手く行けば昇格だってありえたかもしれない。

だが、奪われたのだ。
私の生き甲斐を。一瞬にして崩された。
神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
あなた…大丈夫…?
あなた

愛華…

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
ごめん…あの人声が大きいから…あなた探しに来たら…廊下で言い合ってるの聞こえちゃって…
あなた

大丈夫…私がまだまだ至らないだけだから。次のプロジェクトに力を入れ直すわ

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
あなたはやっぱり強いね…ほんと尊敬する!
あなた

なーに言ってるの…?上司に自分のプロジェクト奪われてる時点で弱いわ(笑)

同期である愛華には笑って誤魔化した。
私がこのプロジェクトにどれほど期待を抱き精力を尽くしていたかは今となっては誰も知らなくていい事だ。
神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
あ、そうそう…すっかり伝え忘れてたけど第2マーケティング課の高橋課長があなたの事探してたよ?
あなた

高橋課長…?あまり接点はないけれど…なんだろ…今回のプロジェクト外された件かな?

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
私も内容は聞いてないから分からないけど…可能性はあるかも?
あなた

ちょっと行ってくるね!ありがとう愛華!また今度飲みに行こう…!

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
必ずだよ!明日でも明後日でも待ってるから!
あなた

必ずね!

私はオフィスに戻り、第2マーケティング課のチームが座っているデスクへと向かった。
高橋課長は親席に座っていた。
あなた

お疲れ様です。高橋課長!
神木から伝言伺いまして、課長が私を探していたと…

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
あーごめんごめん。わざわざありがとう。今回の件聞いたよ…残念だったね…
あなた

とんでもないです…私のマーケティング力が足らなかったのだと思います。

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
まぁ、今後にしっかりと生かせるようにしてよ。
とりあえず僕からは次のプロジェクトの説明をしたくてね。
あなた

はい。次はどのようなプロジェクトになるんですか?

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
君には、韓国に行ってもらう。
あなた

えっ…?か、韓国ですか?

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
今や音楽業界も厳しい世界だ。
中でもJーPOPはかなり右肩下がりでなかなか売れない時代。そんな中でもKーPOPも厳しい状況なのは変わりないが、ファンを付けられたら伸びるコンテンツだ。だから今回は会社として…
あなた

KーPOPを伸ばしていきたいと…いうことですね?

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
そういうことだ。でも我がレーベルはKーPOPの実績があまりない。だから、調査してきて欲しいんだよ。売れそうなアーティストを現場に行ってね。
あなた

わ、私だけ…で、ですか?

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
君なら出来るんじゃないかと思ったんだけど、どうかな?
どうかな?なんて簡単にいうが、私は生まれてこの方韓国語も喋ったことなければ、英語もてんでダメ。外国に出向いたことも無い。パスポートを取るところから始まるレベルなのに…
高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
…てかもうほぼ今回の件で決まってるようなもんなんだよね…君の行先他にないよ?
あなた

そ、そんな…

所謂「左遷」その言葉が1番近しいのではないだろうか…一瞬「辞職」の2文字も私の頭の中でよぎったが…ここで辞めたら私がやりたかったディレクター業務は出来ずに夢を諦める事になる。
あなた

かしこまりました。少しプロジェクト内容が曖昧な気もしますが…私が出来る限り頑張らせて頂きます。

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
その言葉を聞けてよかったよ。
パスポートは…?
あなた

持ってないです…

高橋 貴教(上司)
高橋 貴教(上司)
そうか、そしたら今日にでも申請しに行ってくれ。最短で韓国に向かって欲しい。そして見つけ出してこい。新しいアーティストを。
あなた

はい…

この日を境に私は一気に忙しくなった。

パスポートの発行にいつまで韓国に住むのか分からないため今の家の片付けやある程度の手続き、向こうの言葉は一言も喋れない為、分かりやすそうな韓国語の教則本を買った。

もう向こうで何とかするしかない…

文明が発達している世の中でよかった…。今やスマホで翻訳も出来る時代だ。何とかなると私は信じるしか無かった。

*****

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
あなた…韓国に行くなんて…期間は決まってるの?いつまでなの…?
あなた

あの感じだと期間は無期限…良いアーティストに出会えるまで多分戻っては来れないと思う…

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
そんな…しかも今日行っちゃうんでしょう?
あなた

うん…ゆっくり飲む前に…向こうに行くことになるとは思わなかったよ…

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
絶対、見つけ出してきて。あのクソ部長に見せつけてやってよね!あなたなら絶対出来るんだから!
あなた

ありがとう、愛華…

神木 愛華(同期)
神木 愛華(同期)
連絡は取れるしね。着いたら連絡してよ!
あなた

うん!必ず連絡する!それじゃ、行ってくるね!

こうして私の韓国への出張という名の左遷期間が始まった。

韓国の知識は大してつけられないまま…
これから起こる事も計り知れぬまま…

私はちょっとした旅行気分で、韓国行きの飛行機へ搭乗したのだった。

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