あの動画の一件以来、事務所には私に関する問い合わせが増えた。
辞めて欲しい…私はただのプロデューサーだ…ただのディレクターだ…。とはいえ仕事を疎かにするほど甘えた性格でもなかった為、今日も今日とてジフンの作業部屋に足を運んでいた。
そう言いながらジフンは私の頭をぽんぽんとしてくれた。しかも日本語で「お疲れ様」と…一気に顔が熱くなった。
まさか言ってくれるなんて…半分冗談だったのに…
こ、この子…わかってやってるのかしら…恐ろしい子…!!と内心思いながら、でもジフンにお疲れ様って言ってもらえたから明日も頑張れそうだなとモチベーションも持ち直していた。
こうして急遽その場で仮歌録りが始まった。
ヘッドホンからクリック音が流れオケ音源が流れてくる…
今更どうにかなることでも勿論ないので、諦めるしかないのだが…
私は右手の小指をジフンに向けた。
ジフンは恐る恐る、私の小指に指を絡ませた。
ジフンの誕生日まで後もう2週間もない。
何をプレゼントしようかな?いっそ…告白なんて出来たら、楽なのに…とは思うが、絶対できない。
こういう事になると私はとことん自信がなくなり弱腰になるタイプだった。
恋愛でグイグイ行ける子を見ると本当に羨ましいなと思う。でもいつかは…ジフンと…なんて夢見すぎかな。今なら恋愛に悩める乙女の曲が2、3曲作れそうな勢いで悩んでいる状態だった。
この日はそのまま2人で宿舎に戻って、何事もなく他のメンバーも交えてご飯を食べて一日が終わった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!