ホシくん、スングァンくん、ドギョムくん、ウジくんに連れられて、私はシゴルパッサンという韓定食店に来た。
皆が頼んでくれた料理はどれも美味しくてお箸が止まらない。
次はどれを食べようかと悩んでいる時だった。
プルルルルル…
私の携帯から着信音が聞こえた。
スマホのディスプレイを見ると愛華からの着信だった。
そういえば、韓国についたら愛華に連絡するって言って出来ていなかったな…。
すっかり忘れてしまっていた。
私はお店の外に出て、電話を取った。
そもそもプロジェクトを外される前から、部長にはお前の楽曲選定センスがないだの、俺ならこのグループにこんな曲歌わせないだのなんだのめちゃくちゃに言われていた。
私が作った曲はメンバーの子たちには大好評で、自分で言うのもなんだが、このグループの良いところが引き出せる最高の楽曲だと思っていた。いわゆる自信作だったのだ・・・。
ただ、上司に指摘されて逆らう事は出来ない。
今回の戦略的に合わなかったのだろう・・・そう言い聞かせていたのに。
今更私が作った曲でデビューするってどういう事なの!?使わせてもらうよの一言ももらってない!
心の底から腹が立って仕方なかった。
メンバーの子たちが気に入ってくれていた曲だ。
その曲でデビューしてくれるという嬉しさが込み上げるのと同時に、部長が私の努力全てを踏みにじっていった事を知って、腹が立って、むかついて、憎くかった。
また自分自身がもっとあの子たちの為に上司に認めてもらえるような仕事が出来ていたらこんな気持ちにもならず、プロジェクトを外されることもなかったのだろうか…。
ムカつきすぎて、情けなさすぎて気づいた時には泣いてしまっていた。
頑張るとは言ったものの…気持ちは落ち込む一方だった。あの時こうしてればとかあの時違う判断をしていたらなんてタラレバばかり考えてしまう。
でもだめだ、上を向かないと。
泣いてる暇なんてないんだから。
私は涙を拭い、お店に戻った。
苦しい言い訳だったかもしれないが、今のこのぐちゃぐちゃした感情は皆にぶつけることは出来なかった。
彼らは真っ直ぐにひたすらに夢を追ってる綺麗な子達だ。こんな汚い感情なんて見せたくなかった。
私が無理して笑っていることが、皆に気づかれているのは分かっていた。
でも私には余裕が全然なくて、ただ美味しいねとご飯を食べる事しか出来なかった。
その後はそのまま宿舎に戻り、今日は仕事をしたいからみんなの睡眠の邪魔にならないようにリビングを使わせてくれとお願いした。
なので私は今1人でリビングにいる。
手元にはどうしても持ってきてしまった、今度デビュー曲として世に流れる楽曲の楽譜を置いている。
でもここまで来たら、吹っ切れるしかない。もうデビューまで3日だ・・・今更何を言おうとこの曲でデビューしてしまう事には変わりない。
部長には負けない。負けたくない。
このグループに負けないくらい売れる、推せるグループを作ってみせる。
残念ながら私は諦めも悪いし、売られた喧嘩は買うタイプだ。かわいらしくめそめそ泣いて黙っているタチではない。
その夜私はひたすらに曲を作り続けた。
ただただひたすらに。
ただただがむしゃらに。
作業に没頭した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。