時間はもうすぐ20時になるところ。
俺は、原宿駅前に立っていた。
梶さんとの仕事を終えて、杉田さんに連絡をしたら思いのほか、早く返事がきて「20時に原宿駅で待ち合わせて、夕飯でも食べよう」って。
到着してそれほどせずに、杉田さんは現れた。
(杉田)佐久間くん、お待たせ( ^∀^)
(杉田)いや、丁度仕事終わりでこの近くにいたからさ。むしろ、待ち合わせ場所勝手に決めちゃってごめんね。
(杉田)とりあえず、どっか入ろうか?飯食いながら話そう(^^)
杉田さんに連れられて、路地裏の隠れ家っぽいお店に入り、奥の個室へと通された。
初めて入る店内のせいか、中をキョロキョロと見回してしまった。
(杉田)佐久間くん?
(杉田)あはは。大丈夫、そんな堅苦しいとこじゃないから。それに、俺も初めてきたときはそんな感じだったよ。
杉田さんの言葉に肩の力が抜けた俺は、向き合って席に着くと、早速本題に入った。
(杉田)何?( ◠‿◠ )
メニューを開きながらそう答えると、一瞬俺を見て、杉田さんはこう告げた。
(杉田)佐久間くん、とりあえず、何か飲み物でも頼んでから話そうか。
すぐ終わる話じゃなさそうだし。
杉田さんの言葉に一瞬「えっ?」と思ったけれど、言われるままに、飲み物を注文した。
店員さんが部屋を出るのを確認して、今度は杉田さんが口を開いた。
(杉田)それで、聞きたいことって?
(杉田)ああ、そんなこと言ったね。それをずっと気にしてたの?
(杉田)・・・・・・
杉田さんは腕を組み、小さく息を吐き出した。
俺はそれをただ見つめていると、店員さんが俺たちの飲み物を運んできて、テーブルに並べると再び部屋を出ていった。
目の前のグラスを両手で握りながら、杉田さんはゆっくりと口を開く。
(杉田)アフレコの時のあなたの名字ちゃんはすごく凛としてるんだ。
俺が初めて会った時からそうだった。周りに遅れを取らないようにって、人一倍練習をしてるのも知ってる。
仕事に対して真面目なんだってそう思ってた。
だけどね、いつも全力すぎて、ふと立ち止まった時の反動が大きいんだよ。
(杉田)そう。
なんて言うか、喪失感ってやつ。
それに陥らないために、あなたの名字ちゃんはいつも分刻みで仕事してる。
(杉田)佐久間くんの目にどう写ってるかは分からないけど、あなたの名字ちゃんのプライベートって結構謎でね。
俺も一緒に仕事を始めて数年になるけど、あんまりプライベートの話ってしたがらないから、特別聞きもしなかったんだけど。
それが今となってはなんとなく気になって・・・。
(杉田)佐久間くんは普段Snow Manっていうグループでお仕事してて、相談とか当たり前にメンバーにしてると思うんだけど、どう?
(杉田)・・・だよね。俺にだって相談する相手はいるし、相談だってされる。
あなたの名字ちゃんも確かに仕事の相談にはくるんだけど、その他の相談とかされたことがなくて。
・・・とはいえ、相談してる雰囲気も全くないんだ。
見方によったら、器用なんだろうけどね。なんでも自分の中で消化できてるわけだから。
だけど、人間って持ち合わせてるキャパがやっぱりあると思うんだよ。消化できる許容範囲があっておかしくないはずなんだ。
(杉田)うん。
この前久しぶりにあなたの名字ちゃんと飲んで、話題はやっぱり仕事の話で。
最近の仕事量が俺の予想を超えててビックリした。
「無理はダメだ」って言ったんだけど、笑って「大丈夫」って言うんだよ。
ずっと近くで見てきたはずなのに、あなたの下の名前ちゃんの本当の笑顔が俺には分からなくなった。
(杉田)分かりづらいねf^_^;
要するに、本当に笑ってるのかどうか分別がつかないんだ。
役に順応しやすい彼女だから、どれも本当に見えてくる。
だけど、実際はきっと違う気がして・・・。
声優って仕事にずっと携わってきてる俺だから、見極められないのかなってそんな気が最近してきて、そんな時に俺は佐久間くんに出会った。
慣れない環境で、役を知ろうと真剣に向き合える君なら、あなたの名字ちゃんの真意を見抜けるんじゃないかなって勝手に思って、あの舞台を見せたんだよ。
ごめんね、変なことに巻き込んで´д` ;
杉田さんは、テーブルに手をついて頭を下げたのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。