照 side
あなたの名字さんが店を後にして、俺は小さくため息をこぼしてしまった。
不思議そうに俺を見る阿部。
その隣で舘さんが口を開いた。
俺は舘さんを1度見てからゆっくりと話し始めた。
今日会えたことは、本当に偶然だったんだな。
俺はゆっくりと、冷めたカフェラテを口にした。
2人にそう促し、俺たちは夕食をとった。
彼女の話はそこそこにして・・・。
阿部と舘さんと別れて帰宅したのは23時近く。
用事を済ませてベッドへとダイブして、携帯を開いた。
LINE画面を開き、文字を打ち込む。
ボタンを押せば送信されるのに、それが出来ない。
あのまま、帰してしまったけど、1人考え込んでいないだろうか。
2人であった日に交換した連絡先。
気持ちを測れなくて、俺から送ることは1度も出来なかった。
もちろん、君からの受信も1度もなかった。
初めて話した相手に連絡先を聞かれて、すぐに掛けてくるのもよろしくないのは分かってる。
だけど、あの時は、もしも・・・が頭をよぎって、何かの時に頼る相手になれたらという思いが先行してしまった。
一一一LINE画面
一一一一一一
既読にならない画面をしばらく見つめ、瞳を閉じかけた頃、それは既読になった。
一一一LINE画面
一一一一一一
返ってきた言葉はどこか事務的で、舘さんの言っていた壁を感じた。
また、このまま、終わりにしたら、彼女との関係自体なくなってしまう気がして、慌てて言葉を紡いだ。
一一一LINE画面
一一一一一一
それが精一杯だった。
ほかのどんな言葉を並べ立てるよりも、
1番切実な思い・・・。
一一一LINE画面
一一一一一一
俺は文面を読んで、慌てて起き上がった。
『一一一また、ご連絡します』
拒絶されなかったことがただ嬉しくて、携帯を握りしめたまま、俺は再びベッドへと倒れ込んだのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!