第87話

Flower83 【岩本】
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2021/03/29 10:58
照 side

あなたの名字さんが店を後にして、俺は小さくため息をこぼしてしまった。
阿部亮平
阿部亮平
照?
不思議そうに俺を見る阿部。
その隣で舘さんが口を開いた。
宮舘涼太
宮舘涼太
照、ごめん。
少し早まったかもな。
岩本照
岩本照
いや、手遅れになるよりはいいよ。
阿部亮平
阿部亮平
2人ともなんの話し?
岩本照
岩本照
彼女があんな風に帰るのは想定していた話なんだ。
俺は舘さんを1度見てからゆっくりと話し始めた。
岩本照
岩本照
あなたの名字さんがあまり踏み込まれるのが好きじゃないのは、前に会って話した時に実感してたんだ。
でも、今日俺たちと話してるのを聞いて、阿部も多分気がついたと思うけど。

真面目な性格だからこそ、危なかっしくて。

一生懸命さはすげー伝わるし、実績だってきちんとある。
だけど、仕事から離れたら緊張から解き放たれたように脆(もろ)くなる。
阿部亮平
阿部亮平
脆(もろ)く・・・。
岩本照
岩本照
正直、俺も含め、彼女と仕事をしたことがある人は、声優としての彼女・・・あなたの名字さんしか見えてない、いや、見せてもらえてない。

でも・・・確信はないけど、素の彼女を知る人はきっと、いないんじゃないかって。
裏を返せば、頼れる人がいない、ってそんな気がして。
阿部亮平
阿部亮平
頼れる人・・・。
岩本照
岩本照
だから、なんとか俺たちで力になれないかなって。


舘さんに聞いたら、彼女と面識はあるって言うし、俺だけで話すよりは彼女も聞いてくれるかな、って相談してたところで。
まぁ、今日、会えるとは思ってなかったけどな(^-^;💦
阿部亮平
阿部亮平
あっ、でも、さっき、照、舘様に『彼女と知り合いだと思わなかった』って・・・。
岩本照
岩本照
あなたの名字さんは、俺と舘さんが話をしていることを知らなかったし、変に距離をとられるのを避けたかったから。

舘さんにも知らないフリをしてもらったんだ。
宮舘涼太
宮舘涼太
ごめんな、阿部には何も言ってなくて。
阿部亮平
阿部亮平
そうか・・・。
でも、話を聞いたら何となくつじつまがあったよ。

まぁ、照の言うように、彼女の危うさはピンと来たから。
宮舘涼太
宮舘涼太
俺も初めて見かけた時の人を寄せつけない雰囲気がずっと引っかかってて。
・・・なのに、この前のラジオの時は別人みたいだった。
仕事を離れると、一気に壁を作ってしまうような・・・そんなところが気になってたんだ。

そしたら、偶然、照とその話になって。
まぁ、俺も今日会えるとは思ってなかった(^ω^;)
今日会えたことは、本当に偶然だったんだな。

俺はゆっくりと、冷めたカフェラテを口にした。
岩本照
岩本照
さっきの舘さんの言葉、どこまで響いたかな?
阿部亮平
阿部亮平
どうだろうね。
宮舘涼太
宮舘涼太
俺はただ純粋に彼女とはこれからも仲良く出来たらと思う。
仕事に対する向き合い方が、俺にはしっくりきて、話していて楽しいしな。
阿部亮平
阿部亮平
いいなぁ、俺も話したいなぁ。
俺の知らない知識、たくさん聞けそうだし。
岩本照
岩本照
・・・1人で苦しまないようにだけはしてあげたいな。
阿部亮平
阿部亮平
照?
岩本照
岩本照
いや・・・。

せっかくだから何か食べて帰ろうか?
2人にそう促し、俺たちは夕食をとった。
彼女の話はそこそこにして・・・。



阿部と舘さんと別れて帰宅したのは23時近く。
用事を済ませてベッドへとダイブして、携帯を開いた。
岩本照
岩本照
(連絡してみようか・・・)
LINE画面を開き、文字を打ち込む。
ボタンを押せば送信されるのに、それが出来ない。

あのまま、帰してしまったけど、1人考え込んでいないだろうか。


2人であった日に交換した連絡先。
気持ちを測れなくて、俺から送ることは1度も出来なかった。
もちろん、君からの受信も1度もなかった。
初めて話した相手に連絡先を聞かれて、すぐに掛けてくるのもよろしくないのは分かってる。
だけど、あの時は、もしも・・・が頭をよぎって、何かの時に頼る相手になれたらという思いが先行してしまった。
一一一LINE画面
岩本照
岩本照
こんばんは。
遅くにすまない。

さっきは・・・ごめん。

それだけ言いたくて。
一一一一一一
既読にならない画面をしばらく見つめ、瞳を閉じかけた頃、それは既読になった。
一一一LINE画面
(なまえ)
あなた
こちらこそ、楽しかったです。
みなさんにもよろしく伝えて下さい(^-^)
一一一一一一

返ってきた言葉はどこか事務的で、舘さんの言っていた壁を感じた。

また、このまま、終わりにしたら、彼女との関係自体なくなってしまう気がして、慌てて言葉を紡いだ。


一一一LINE画面
岩本照
岩本照
あの、今度ゆっくり会えないかな。


話したい、君と。
一一一一一一

それが精一杯だった。

ほかのどんな言葉を並べ立てるよりも、
1番切実な思い・・・。


一一一LINE画面
(なまえ)
あなた
まだ来週の予定がはっきりしなくて・・・。
今はまだ約束が出来ません。
ごめんなさい(。>人<)



岩本さんさえよければ、週末またご連絡します。
一一一一一一
俺は文面を読んで、慌てて起き上がった。


『一一一また、ご連絡します』


拒絶されなかったことがただ嬉しくて、携帯を握りしめたまま、俺は再びベッドへと倒れ込んだのだった。

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