佐久間が席を立って、5分ほどして俺も席を立った。
それだけを言い残して、部屋を出たけど、そのことに対して誰も疑うこともなく追ってくることはなかった。
・・・とはいえ、佐久間がどこに行ったのかなんて分かるわけもなく、当てもなく廊下を歩いていくと突き当たりに佐久間らしき人の姿を見つけた。
ゆっくりと近づくと、佐久間の声がきこえてきた。
そうは思っても、その場から動くことが出来なかった。
電話を切った佐久間がこっちに歩いてくると、当然だが、俺に気がついて、こう問いかけてきた。
俺の態度に対して、不自然さを感じなかったのか・・・それとも気がついたけど、見知らぬ顔をしたのか、それは分からないけど。
佐久間はその場をスルーして、みんなの居る会議室へと向かう。
俺もその後ろをついて歩くと、少しして足を止めた。
俺にそう言うと、佐久間は窓際に立ち、ポケットから取り出した携帯を開いた。
それを背に感じながら、俺は会議室の中へと入っていった。
こんなにも佐久間を気にするなんて、いつもの俺ならありえないとは思う。
だけど、この時の俺は、どうしても気になって仕方なかった。
だから、この後佐久間が取った行動にあんな形で便乗してしまったんだ。
俺が戻って数分後、佐久間が会議室に姿を現した。
佐久間は、窓際の椅子に腰掛けると、バッグからイヤフォンを取り出して、携帯で何かを聞き始めた。
何かを察したふっかがラウたちを制した。
なのに、俺はそれを破って、佐久間に声をかけた。
イヤフォンを片方取り上げ、自分の耳へと付けた。
何を聞いているのかなんて、先程の電話の内容で大方検討がついている。
電話の相手が送ってきた音源だろう。
耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある歌。
そんな佐久間の言葉に脳裏によぎるのは、いつかの出来事。
メロディーが進むにつれ、その違和感は少しずつ確信へと変わっていく。
その感情が俺の中で少しずつ芽生える中、佐久間が呟く。
俺の言葉に、佐久間はそこにいるみんなに向けて同じような提案をする。
もちろん、みんなはすぐにOKを出して、佐久間の携帯をスピーカーにして、耳を傾けた。
静かな会議室内に、女性の声で『EVERYTHING IS EVERYTHING』が響き渡る。
目を閉じている人もいれば、腕組みして外を眺めている人、それぞれの聞き方をしている。
みんなはどんな気持ちでこれを聴いているんだろう。
曲が最後に近づくにつれ、俺の頭の中はあの日の歌声とリンクして、終わる頃には完全にピースが一致した気がした。
聞き終えて、みんながその歌に対して感想を述べる中、俺の視線は佐久間へと向いていた。
そのきっかけをどう作ろうか、それを模索することでいっぱいだった。
会ったことがあるとも知らずに・・・。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。