第82話

Flower78 【渡辺④】
756
2021/03/19 08:51
佐久間が席を立って、5分ほどして俺も席を立った。
向井康二
向井康二
しょっぴー、どこ行くん?
渡辺翔太
渡辺翔太
ちょっとトイレ行ってくる
それだけを言い残して、部屋を出たけど、そのことに対して誰も疑うこともなく追ってくることはなかった。
・・・とはいえ、佐久間がどこに行ったのかなんて分かるわけもなく、当てもなく廊下を歩いていくと突き当たりに佐久間らしき人の姿を見つけた。
渡辺翔太
渡辺翔太
(佐久間、あんなところで何やってんだろ?)
ゆっくりと近づくと、佐久間の声がきこえてきた。
佐久間大介
佐久間大介
「今日?
そうだな、レコーディングが何時に終わるかが、まだわかんないんだけど、その後でもいいかな?」
渡辺翔太
渡辺翔太
(誰かと待ち合わせ?)
佐久間大介
佐久間大介
「えっ・・・あっそうだよね。
そっちも予定があるもんね。
どうしようか・・・」
渡辺翔太
渡辺翔太
(盗み聞きなんてよくないけど・・・でも・・・)
そうは思っても、その場から動くことが出来なかった。
佐久間大介
佐久間大介
「うん…うん…じゃあ、データを携帯に送ってくれる?
聞いたら、こっちから連絡入れるから。
・・・音源悪くても大丈夫だよ、試し撮りでしょ?
うん…じゃあ、待ってるから」
電話を切った佐久間がこっちに歩いてくると、当然だが、俺に気がついて、こう問いかけてきた。
佐久間大介
佐久間大介
翔太じゃん。こんなとこで何やってんの?
渡辺翔太
渡辺翔太
あっ、気がついたら、佐久間が部屋にいなかったから何かあったのかと思って探してみたσ^_^;
佐久間大介
佐久間大介
そうなんだ。それはごめん。
ちょっと別な仕事のことで連絡があったからそれで・・・。
俺の態度に対して、不自然さを感じなかったのか・・・それとも気がついたけど、見知らぬ顔をしたのか、それは分からないけど。
佐久間はその場をスルーして、みんなの居る会議室へと向かう。
俺もその後ろをついて歩くと、少しして足を止めた。
佐久間大介
佐久間大介
翔太、ごめん、すぐ戻るから、中入ってて。
俺にそう言うと、佐久間は窓際に立ち、ポケットから取り出した携帯を開いた。
それを背に感じながら、俺は会議室の中へと入っていった。
こんなにも佐久間を気にするなんて、いつもの俺ならありえないとは思う。
だけど、この時の俺は、どうしても気になって仕方なかった。
だから、この後佐久間が取った行動にあんな形で便乗してしまったんだ。
俺が戻って数分後、佐久間が会議室に姿を現した。
深澤辰哉
深澤辰哉
佐久間、どこ行ってたの?
佐久間大介
佐久間大介
ちょっと電話σ^_^;

まだ、俺らの番じゃないよね?
深澤辰哉
深澤辰哉
うん。まだ照たちも戻ってきてないし。
佐久間大介
佐久間大介
そっか。それならよかった。
佐久間は、窓際の椅子に腰掛けると、バッグからイヤフォンを取り出して、携帯で何かを聞き始めた。
ラウール
ラウール
佐久間くん、何聞いてるのかな?
目黒蓮
目黒蓮
なんだろう?
向井康二
向井康二
聞いてみる?
深澤辰哉
深澤辰哉
仕事のやつじゃないの?
何かを察したふっかがラウたちを制した。
なのに、俺はそれを破って、佐久間に声をかけた。
渡辺翔太
渡辺翔太
佐久間?
イヤフォンを片方取り上げ、自分の耳へと付けた。
佐久間大介
佐久間大介
うわっ?!
何を聞いているのかなんて、先程の電話の内容で大方検討がついている。
電話の相手が送ってきた音源だろう。
佐久間大介
佐久間大介
なんだ、翔太か…(゚o゚;;
びっくりすんじゃん
渡辺翔太
渡辺翔太
何、聞いてんの?
佐久間大介
佐久間大介
ああ、知り合いが歌ってる歌
渡辺翔太
渡辺翔太
知り合い?
佐久間大介
佐久間大介
うん。今度初めてレコーディングするらしいんだけど、歌ったことがないとかで「聞いてほしい」って言われてさ。
カラオケで歌った音源を送ってくれたんだよ。
渡辺翔太
渡辺翔太
そうなんだ。
耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある歌。
渡辺翔太
渡辺翔太
これって俺たちの歌じゃん。
佐久間大介
佐久間大介
そう。『EVERYTHING IS EVERYTHING』だよ。
俺たちの歌なのに、雰囲気だいぶ変わるよね。
そんな佐久間の言葉に脳裏によぎるのは、いつかの出来事。
渡辺翔太
渡辺翔太
(この声…どこかで…)
メロディーが進むにつれ、その違和感は少しずつ確信へと変わっていく。
その感情が俺の中で少しずつ芽生える中、佐久間が呟く。
佐久間大介
佐久間大介
俺が助言するほどのこと、ない気がするんだけど、どう思う?翔太?
渡辺翔太
渡辺翔太
・・・・
佐久間大介
佐久間大介
翔太?
渡辺翔太
渡辺翔太
・・・うん?
佐久間大介
佐久間大介
どうした?
渡辺翔太
渡辺翔太
いや・・・あっ、大丈夫ならさ、みんなにも聞いてもらったら?
佐久間大介
佐久間大介
えっ?
渡辺翔太
渡辺翔太
メンバー全員から助言もらえたら、自信にもなるんじゃない?
佐久間大介
佐久間大介
あーなるほど( ̄▽ ̄)
俺の言葉に、佐久間はそこにいるみんなに向けて同じような提案をする。
もちろん、みんなはすぐにOKを出して、佐久間の携帯をスピーカーにして、耳を傾けた。
静かな会議室内に、女性の声で『EVERYTHING IS EVERYTHING』が響き渡る。

目を閉じている人もいれば、腕組みして外を眺めている人、それぞれの聞き方をしている。
みんなはどんな気持ちでこれを聴いているんだろう。
曲が最後に近づくにつれ、俺の頭の中はあの日の歌声とリンクして、終わる頃には完全にピースが一致した気がした。
渡辺翔太
渡辺翔太
(俺が探してたのは、この子だ・・・)
聞き終えて、みんながその歌に対して感想を述べる中、俺の視線は佐久間へと向いていた。
渡辺翔太
渡辺翔太
(一度でいい。この歌声の彼女と話がしたい)
そのきっかけをどう作ろうか、それを模索することでいっぱいだった。

会ったことがあるとも知らずに・・・。

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