第95話

Flower90 【渡辺②】
564
2021/04/01 04:24
録音を終えて、ブースでスタッフさんと話す彼女を見ていると、佐久間が俺に声をかけてきた。
佐久間大介
佐久間大介
翔太
渡辺翔太
渡辺翔太
どうした?
佐久間大介
佐久間大介
今のを聞いて、何か指摘とかあるかって聞かれてるんだけど、なんかある?
渡辺翔太
渡辺翔太
えっ?いや、俺が聞く限りじゃ特にはないと思うよ。
彼女の持ち味が出ていいんじゃない?
佐久間大介
佐久間大介
俺も特には問題ない気がする。

翔太のパートとかどう?
渡辺翔太
渡辺翔太
俺のところは特に。
むしろ、切なさが増していい感じだし(^-^)
佐久間大介
佐久間大介
確かに・・・そうだね。

じゃあ、そう言ってくるよ。
俺たちのやりとりを彼女とスタッフに伝えに行った佐久間。
ブースの中では楽しそうに笑ってる。

その光景が再び俺の胸を疼かせる。
なんだろう・・・そう思いながらぐっと胸を押さえた。

今日はあくまで俺は付き添いでメインではない。
そして、彼女と親しいのも俺じゃなくて、佐久間だ。
当たり前のことなのに、それがしんどい。

出来るなら、佐久間と変わりたいとさえ、思うほどに・・・。
佐久間大介
佐久間大介
翔太?
渡辺翔太
渡辺翔太
あっ、どうした?
佐久間大介
佐久間大介
一発OKだって。
すごいね、撮り直しなしだよ。
渡辺翔太
渡辺翔太
そっか。
佐久間大介
佐久間大介
予定より早く終わったみたいで、今からお茶でもって言ってるんだけど、翔太はどうする?
渡辺翔太
渡辺翔太
俺も行っていいの?
佐久間大介
佐久間大介
あなたの名字さんがぜひって言ってるよ( ・∇・)
渡辺翔太
渡辺翔太
じゃあ、お言葉に甘えて
俺はなんて現金なんだろうと思う。
彼女が言ってるってだけで、さっきまでのテンションがこんなにも上がってしまうんだから。
彼女がスタッフの人たちに挨拶をしてこちらにやってくるのが見えた。
佐久間大介
佐久間大介
あなたの名字さん、お疲れ様。
(なまえ)
あなた
佐久間さん、渡辺さん、お待たせしました。
佐久間大介
佐久間大介
心配することなかったじゃん。
収録、バッチリだったよ。
渡辺翔太
渡辺翔太
とてもよかったよ
(なまえ)
あなた
ありがとうございます(*'▽'*)
嬉しそうにそう答える彼女の表情はとても優しくていつまでも見ていたいと思う。
佐久間大介
佐久間大介
どこ行こうか?
(なまえ)
あなた
余り目立たないところがいいですよね。
佐久間大介
佐久間大介
えっ?
(なまえ)
あなた
杉田さんから、佐久間さん達とお茶するときは、人目を気にしないとダメだよ、ってこの前言われたんです。
佐久間大介
佐久間大介
杉田さんから?
(なまえ)
あなた
はい。ファンの方たちに偶然にでも会って、佐久間さんたちに迷惑がかかるようなことはしちゃいけないって。
佐久間大介
佐久間大介
そんなことを言ってくれてたんだ。
(なまえ)
あなた
私がそういうところに疎(うと)いせいで、すみません。
佐久間大介
佐久間大介
いや、俺たちも気をつけないといけないことだから。
あなたの名字さんだって、声優の中じゃ人気も高いんだし。
スキャンダルにでもなって困るのは君も一緒だよ。
(なまえ)
あなた
私はそんな・・・。
佐久間大介
佐久間大介
まあ、とりあえず、どっか行こうか?
ここで立ち話もなんだし。

翔太、どこかいいとこある?
渡辺翔太
渡辺翔太
う〜ん、どっかあるかな?
佐久間は?
佐久間大介
佐久間大介
この近場じゃファミレスくらいしかないもんね。
(なまえ)
あなた
あの・・・
佐久間大介
佐久間大介
なあに?
(なまえ)
あなた
ここから少し歩くんですけど、そこだったら、あんまり人目につかないかも・・・。





彼女に連れてこられたのは、路地裏にある小さな喫茶店。
中に入ると、マスターらしき人が彼女に話しかけてきた。


(マスター)あなたの下の名前ちゃん、こんにちは。
珍しいね、今日は連れが一緒なんて。
(なまえ)
あなた
マスター、こんにちは。
3人なんですけど、いいですか?
(マスター)大丈夫だよ。いつもの席でいいかな?
(なまえ)
あなた
はい(^-^)
窓際のテーブルに腰を下ろした。
奥に彼女が。
手前に、俺・佐久間の順で座る。
飲み物を注文すると、佐久間が最初に口を開いた。
佐久間大介
佐久間大介
レトロなお店だね。
あなたの名字さんはよく来るの?
(なまえ)
あなた
なんて言うか、行きつけなんですσ^_^;
時間があるとここに来る、みたいな・・・。
佐久間大介
佐久間大介
そうなんだ。
渡辺翔太
渡辺翔太
いつも1人で来るの?
(なまえ)
あなた
今まではそうだったんですけど、最近はここでお会いする方もいるので。
渡辺翔太
渡辺翔太
よく会う人?
(なまえ)
あなた
はい。あの、お二人のお知り合いの、宮舘さんとか。
渡辺翔太
渡辺翔太
舘さん!?
(なまえ)
あなた
はい。
宮舘さんも以前からこちらにきていたらしくて。
最近は見かけると声をかけてくれて。
渡辺翔太
渡辺翔太
知らなかった・・・(´⊙ω⊙`)
佐久間は知ってた?
佐久間大介
佐久間大介
俺も初めて聞いたよ(゚o゚;;
まさかの名前に、ただ驚くしかなかった。
佐久間大介
佐久間大介
舘様とどんな話をするの?
(なまえ)
あなた
特には・・・本当に声をかける程度で。
先日はお茶しましたけど。
その時は、宮舘さんも連れがいましたし。
渡辺翔太
渡辺翔太
舘さんに連れって・・・
佐久間大介
佐久間大介
それって、うちのメンバー?
(なまえ)
あなた
はい、岩本さんと阿部さんです。
渡辺翔太
渡辺翔太
照たちも来てたの!
佐久間大介
佐久間大介
なんか俺らたちだけ除け者っぽくない?
(なまえ)
あなた
そんなことは・・・σ^_^;
別にお約束してたわけじゃないし、本当に偶然だったんですから。
目の前に運ばれてきたココアを飲みながら、彼女は小さく笑う。
渡辺翔太
渡辺翔太
でも、ほんとにレトロ感があって、静かで過ごしやすいかも。
(なまえ)
あなた
はい。すごく気に入ってます( ◠‿◠ )
コロン・・・と、アイスコーヒーの氷が溶ける音がした時、佐久間がふいに立ち上がった。
渡辺翔太
渡辺翔太
どうした?
佐久間大介
佐久間大介
ちょっとトイレ行ってくる
マスターに場所を聞き、佐久間はトイレへと向かう。
残された俺たちの間には沈黙が流れた。


彼女と連絡する術を持ち合わせていない俺にとって、絶好のチャンスで。
今、聞かないと、彼女とのつながりを持つことは出来ない。
窓の外を見つめる彼女に、問いかけるとゆっくりと俺の顔を見た。
渡辺翔太
渡辺翔太
あなたの名字さん
(なまえ)
あなた
なんですか?渡辺さん(^^)
渡辺翔太
渡辺翔太
あの、よかったらなんだけど、連絡先、聞いてもいいかな?
(なまえ)
あなた
えっ?
渡辺翔太
渡辺翔太
いや、変な意味じゃなくて・・・その・・・。
これから一緒の仕事も増えるだろうし。
何かあった時ように教えてもらえたら、って思ったんだけど、どうかな?
一瞬戸惑った表情を見せたものの、次の瞬間、笑顔に戻り、スマホのQRコードを見せてくれた。
そして、LINEの交換をしたのだった。
渡辺翔太
渡辺翔太
ありがとう(*´꒳`*)
(なまえ)
あなた
いえ(^ ^)
あの、返信とか早い方ではないので、それだけは分かっていてもらえると嬉しいですf^_^;
渡辺翔太
渡辺翔太
了解(^_^)a
彼女との関係が一歩前進したことが素直に嬉しくて、アドレスに彼女の名前が入った画面を見て、顔が緩むのを止められなかった。
そんな中、俺はもう一つのお願いをしてみることにした。
渡辺翔太
渡辺翔太
あっ、もう一ついいかな?
(なまえ)
あなた
はい?
渡辺翔太
渡辺翔太
名前、呼んでもいい?
その・・・あなたの下の名前ちゃんって。
(なまえ)
あなた
えっと・・・(●︎´・ω・)a 
勢いに任せて口にしたお願いはやはり、彼女を困惑させてしまっていた。
予想は出来ていたけれど、こんなにも困らせてしまうとは・・・。
すぐ様やってくる後悔の波に飲まれそうになる。
渡辺翔太
渡辺翔太
今すぐじゃなくてもいいから。
そのうち、その・・・名前で呼びたいなって・・・。
無理矢理したフォローは更なる困惑を呼んでしまったようだった。
渡辺翔太
渡辺翔太
(急ぎすぎだって・・・何やってんだ、俺は´д` ;)
(なまえ)
あなた
あの・・・
視線を落としかけて、降ってきた言葉に慌てて彼女を見た。
渡辺翔太
渡辺翔太
なに?
(なまえ)
あなた
私、あんまり下の名前で呼ばれることがなくて・・・呼ばれ慣れてないんです。
・・・なので、その、実際呼ばれても反応とか遅いかも知れないですけど、いいですか?σ(^_^;)
頬をうっすらと赤く染めてそう口にする彼女の、精一杯の返答だったのだと分かった。
渡辺翔太
渡辺翔太
うん、大丈夫!!
ありがとう(*´꒳`*)
こうして、彼女から承諾をもらって。
その日俺の携帯には彼女・・・あなたの下の名前ちゃんの名前で連絡先が増えたのだった。

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