第72話

Flower68 【岩本②】
1,041
2021/03/10 23:07
平日の20時。
駐車場には、俺の車しか停まっていない。
岩本照
岩本照
えっと……どこで話そうか?

2人のほうがいいかと思ってこんな所まできちゃったけど、車の中に2人のほうが気まずいかな?(^-^;💦
外に出るには風が冷たい気がするし、な。
選択を間違ったかな?
…とはいえ、カラオケじゃゆっくり出来ないし。

助手席を見れば彼女は静かに窓の外を眺めている。
岩本照
岩本照
あなたの名字さん?
(なまえ)
あなた
岩本さん
か細い声が俺の名前を呼んだ。
(なまえ)
あなた
岩本さんが私を見た日。

あの日は、私の恩師が亡くなった日でした。
岩本照
岩本照
えっ?
(なまえ)
あなた
交通事故でした。
事故に遭う数時間前まで一緒に居て、演技指導してくれてた先生が、帰る途中に道路に飛び出した子供を助けて、そのまま…。

即死…だったそうです。

私が駆けつけた時にはもう手遅れで…。
肩を震わせながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
(なまえ)
あなた
ベッドに横になる先生は、綺麗な顔でまるで眠って居るようでした。
私がもう少し一緒に居たら、先生は事故に遭うこともなかった気がして、悔しくて仕方なかった。
やりきれない気持ちで、病室を後にして、あちこち歩き回って、気がついたらあの歩道橋で。
あの時の様子を思い返しながら、耳を傾ける。
(なまえ)
あなた
岩本さんが見つけた私は、あの時、本当はここから飛び降りるつもりだったんです。
先生の後を追って…。
岩本照
岩本照
…うそっ……(゚o゚;
(なまえ)
あなた
結局出来なかったんですけどね(^-^;💦


私、昔からお芝居とか苦手で。
人前で演技するのなんて、絶対無理で。
そんな私を母が劇団に入れて、そこで指導してくれたのがその先生だったんです。
今の私を作ってくれたのは、紛れもなく先生で、声優になるきっかけも先生だった。
岩本照
岩本照
(俺がダンスが嫌いでダンスに通わせてくれた家族…そのおかげで、今の俺が居る)
境遇が似てることが更に胸を締め付ける。
(なまえ)
あなた
あの時は、声優として駆け出しで精神的にも追い詰められてたから、先生を無くしたショックで追い打ちをかけられてたんだと思います。

ギリギリで踏みとどまったのは、先生が今までむけてくれていた思いを無駄にしちゃいけないと思ったから。
彼女の発する言葉の節々から、抱えているものの重さを痛感する。
(なまえ)
あなた
雪の中、悲しい気持ちを凍らせて。
もう仕事以外では泣かない、って決めて、ずっと今日までやってきたのに…。

岩本さんの言葉に簡単に泣けちゃいましたね、私(^-^;💦
カフェオレの缶を握りしめながら、苦笑いをする彼女には、落胆の色も見えた。
岩本照
岩本照
そんなことがあったんだ。

…よく、頑張ったね(^-^)
俺は顔も見ずに、助手席の彼女の頭をただゆっくりと撫でた。
(なまえ)
あなた
誰にも見られてないと思ってたのに。

しかも、見ていた人と、こんな風に再会するとは思ってませんでした(;^_^A
岩本照
岩本照
それは、ごめん(^-^;💦

君が佐久間と仕事することになって。
それから、佐久間と、君の舞台を見に行って。
その時の君を見てから、俺の記憶の中で、どうしてもあの日のことが頭から離れなくなったんだ。

だから、君と話すきっかけをずっと探してた。
(なまえ)
あなた
岩本さん…
岩本照
岩本照
今日、こうやって君と話せて俺は嬉しかったよ。
(なまえ)
あなた
…(灬ꈍ ꈍ灬)ポッ
岩本照
岩本照
何より『君が生きててくれて良かった』って素直に思ってる。
(なまえ)
あなた
大げさですよ(✿˘艸˘✿)
俺の言葉を笑って受け流す君は、先程とは違って明るい表情をしていた。
(なまえ)
あなた
でも…。
見つけてくれたのが、岩本さんで良かったです。
岩本照
岩本照
えっ?どうして…。
(なまえ)
あなた
理由は…正直分からないですけど、私、多分岩本さんだったから、打ち明けようと思ったんだと思います。
今まで誰にも話したことは無かったから。
彼女の言葉を俺は静かに聞いていた。
岩本照
岩本照
(今日初めて話した俺に対して、どうしてそう思ったか、は分からなかったし、それを追求しようとまでは思わなかった。
……………ただ、素直に嬉しかった)
(なまえ)
あなた
話、聞いてくれてありがとうございました。
スッキリしました٩(ˊᗜˋ*)و
岩本照
岩本照
俺こそ、話してくれてありがとう(^-^)
ようやく2人で笑いあった時には、月もいい具合に高くなっていた。
(なまえ)
あなた
岩本さん、ちょっとだけ、外、出ません?
岩本照
岩本照
あぁ。
時計の針は、もうすぐ、21時になる。
月が綺麗に見えるくらいに空気が澄んでるせいか、やっぱりさむい(((゚〰゚)))
上着を羽織ってはいても、冷たい風が身体を冷やしていく。
(なまえ)
あなた
私、初めてここに来ました。
景色、すごくいいですね。
岩本照
岩本照
時々来るんだ。
ゆっくり色々考えたい時にさ。
(なまえ)
あなた
そうなんですか…。
でも、この景色を見てたら、頭の中、空っぽに出来そうな気がします。
綺麗で、嫌なこととかも忘れられそう(〃艸〃)
岩本照
岩本照
確かにそうかも(*"ー"*)フフッ♪

冷えてきたね、そろそろ帰ろうか?
(なまえ)
あなた
はい(^-^)
車に乗り、再び帰路につき、彼女の家の場所を尋ねると、意外にも俺の家の近くで。

少しだけお互いが打ち解けた俺たちは、行きよりも会話が弾み、あっという間に彼女の家の前に着いたのだった。
岩本照
岩本照
今日は本当にありがとう。

それから、遅くまで連れ回してごめん。
(なまえ)
あなた
いえ、こちらこそ。
お話出来て良かったです。

声、かけてくれてありがとう(*´﹀`*)✨
彼女の話を聞いて、そして、涙を見てから。
目の前でコロコロと変わる彼女の表情に胸が疼くのが分かる。
そして、車を降りようとする彼女に俺は真剣な眼差しでこう告げた。
岩本照
岩本照
あなたの名字さん…あの、もし、君が嫌じゃなければ、だけど…。

泣きたくなったら、俺を呼んでよ
(なまえ)
あなた
えっ?
岩本照
岩本照
君が苦しい時、その…傍にいたいな、って。

俺じゃ、先生の代わりにはなれないかもしれないけど、それでも…。

今日みたく、抱きしめてあげることは出来るから。
君の気持ちが落ち着くまでずっと手を握ってることも出来るから。
俺の、今の精一杯だった。

ただ独りにしたくなかったんだと思う。


しばらくして俺の言葉に笑顔を見せた彼女は、はにかんだ顔で答えた。
(なまえ)
あなた
ありがとう、岩本さん(✿˘艸˘✿)
そのやり取りの後、俺たちは連絡先を交換して別れた。

独りになった車の中で、思い返すのは彼女の笑顔で…。

気がつけば、彼女がずっと伏せてきた思いを呼び起こしてしまった事への罪悪感が、少しずつ薄れてきていることが自分自身不思議で仕方なかった。

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