第22話

大神君-3
815
2018/10/04 02:29
はー、ついに来ましたかー。

いやね、大神が私のことを好きだというのは早い段階から気付いていましたよ。もうそういう視線をびんびんに感じていましたからね。他人の視線には敏感というか、常に気にして生きてきたからこそ分かる好意だった。

大神直。クラスの、いや学年の中でも五指に入るほどスペックの高い男である。他の四人を挙げろと言われたら困るけど、たぶんそれぐらいスゴイ男だ。

何よりまず顔がいい。可愛いと格好良いの中間に位置する甘い顔立ちは、若手俳優の誰それに似ているとクラスの女子がよく騒いでいた。私もクラスで初めて見たときは、バレないように何度もチラ見してしまった。

入学初日から髪を茶色に染めてきていたのでチャラ男かと思ったが、話してみるとけっこう普通というか、むしろ大人っぽくて少しドキドキしたのを覚えている。

うわコイツ香水つけてるよ! めっちゃイイ匂い!

隣にきたら無駄に呼吸を増やしていたと思う。少しどころじゃないな。

あと人によって態度変えて話さないし、植草みたいにグイグイ来ないし、実家は金持ちらしいし、自宅がめちゃくちゃデカいらしいし、親は社長らしい。

いやいや、なんかこう言うと私が金目当てみたいに聞こえるじゃん。違う、断じて違うから。大神家の資産になんてこれっぽっちも興味なんてないし。

大神のことは、たしかに格好良いと思う。こんな彼氏がいたら自慢だろう。

しかし私には生活費を稼ぐという使命がある。スパイダーとして活動していくにあたって、彼氏なんて邪魔以外の何物でもない。いくら大神が私を好きだとしても、その気持ちに応えることはできなかった。

でももし、もし付き合ったとしたら、デートとかするんだろうな。大神のことだからデート代は奢ってくれるんだろう。ねだったら卵とか野菜とか、ぎゅ、牛肉とか! 買ってくれるかもしれない。お一人様一個までのトイレットペーパーを販売しているスーパーに一緒についてきてくれたり、誕生日おめでとうと言って商品券をくれるかもしれない。

大神を振るか否か、天秤がガクガクと揺れに揺れた。今の私は、最近値上がりした白菜を花束代わりに差し出されたら頷いてしまいそうなくらいにちょろくなっている。植草のことを馬鹿にできない、私は今、ちょろ見になっている。



葛藤(かっとう)しているうちに、呼び出された化学室に到着してしまった。

そっとドアに触れると、鍵はかかっていなかった。少しだけ開けて隙間から中を覗こうとした瞬間、扉が横にスライドした。
大神直
大神直
清見さん
大神からは、相変わらず良い匂いがした。至近距離から見下ろされて何も言えずに固まっていると、入って、と促される。大神以外の人間は、当然だがいない。植草と木和田が冷やかしに来ているんじゃないかと想像した私は、いざ本番を迎えると完全に怖気づいてしまっていた。

ど、どうしよう。

答えはまだ、いや、もう出ている。大神とは付き合えない。ごめんなさいと言えばいい。言えばいいんだけど、目の前に立つ大神の眼差しがあまりにも真剣で、思いつめていて、必死の覚悟でそこにいるというのが分かってしまった。
大神直
大神直
今からすごく大事な話をするから、落ち着いて聞いてほしいんだ
清見ヒロ子
清見ヒロ子
……大事な話って、なに
分かっているのに訊く白々しさよ。心臓が痛くなってきた。

告白されるのは初めてだった。中学までは極力地味に生きてきたから、男子の眼中になかっただろう。それがいきなりの高スペック男子に告白されるなんて、助走なしにハードルを跳ぶようなもんだ。絶対転ぶわ。うっかり頷いちゃうわ。こんな彼氏いたら自慢だもん。
大神直
大神直
清美さんが、ロコだろ

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