学校での昼休み、お弁当に入れたプチトマトをつつきながら欠伸をした。いつもなら口を押さえて可愛らしくするけど、その演出も今は頭から抜け落ちていた。
いいの、元々ブサイクだから。化粧で見られる顔にしてるだけだし。
ころころ転がるプチトマトが中々摘めない。けだるげな私の様子に、芙美と奈々香は顔を見合わせていた。
何がちょっとなのか返事になっていない返事をして、私は黙々とお弁当を食べた。
原因は、スパイダーウェブだ。
登録して今日でちょうど一週間。見よう見まねで動画を投稿して、視聴回数はなんと十三回。うち、コメントは1つ。内容は『ブス』だった。
おいぶっころすぞ、ユーザー名『ポポロン』。
身バレを懸念して、スパイダー活動はほぼスッピンでいくことにした。高校では盛りに盛った化粧で隠しているが、すっぴんの私はソバカスにつり目だ。中学時代はこれに分厚い眼鏡をかけ、常に俯いていた。私の素顔を知る人間は、家族以外にいない。
愛くないのは自分でもよく分かってはいるが、ポポロン、貴様に言われる筋合いはないんだよ。
それにしてもだ、視聴回数はどうやったら増えるんだ。ユータンにできて私にできないなんて世の中間違っていないか。私も電車を追いかけたらいいのか。
もしかしたら動画のタイトルがいけなかったのかもしれない。『ボンビーあつまれ! 節約レシピ』ではインパクトが薄かったか。それとも料理というジャンルが悪かったのだろうか。スパイダーウェブにはすでに有名料理動画が多数あったが、どれもオシャレな感じで似たことをやっても駄目だと思った。だったら間逆の、貧乏臭い料理ならどうだ。これを考え付いたとき、私は自分を天才だと思ったね。結果は惨敗だったけど。
悶々と考え込んでいる間に芙美と奈々香はお弁当を食べ終わり、コンビニスイーツを食べ始めていた。
格好いいだけで年収一億円になれるんなら、整形でもしてやろうか。黒い考えが胸に渦巻くが、整形するお金もないことに気がついて落ち込んだ。
わ、割とドライだな。
スイーツほど甘くない言葉を吐き出しながら、二人はさらに言った。
親近感、手が届く。プチトマトを箸で摘まみながら、心のメモに書き込む。
本当の、自分。
プチトマトが、まるで逃げるように箸から飛び出した。床を転がって誰かの足に当たる。足の持ち主は大神だった。
自分でもかなり適当なことを言ったと思った。
一緒にお昼ご飯を食べていた植草がツッコミを入れた。まっとうな意見だ。
落としたプチトマトはあとでゴミ箱に入れておくことにする。私は残りのお弁当をゆっくりと食べ始めた。
通路を挟んで隣に座る大神が話しかけてくる。口を動かしながら、声は出さずに首を傾げる。この仕草をすると、男の子は大抵黙ってくれる。
けれど大神は違った。
思わぬ申し出に、食べる手を止めた。十分に噛んでいないおかずを飲み込んでしまったので、考える時間も稼げない。正直言えば、行きたくなかった。
あっという間に放課後の予定が埋まってしまった。でも奢りだから、いいか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。