第8話

こんにちはぁ、ロコで〜す-3
1,225
2018/09/20 02:36
学校での昼休み、お弁当に入れたプチトマトをつつきながら欠伸をした。いつもなら口を押さえて可愛らしくするけど、その演出も今は頭から抜け落ちていた。
芙美
芙美
ヒロ、ぶっさいくだよ
いいの、元々ブサイクだから。化粧で見られる顔にしてるだけだし。

ころころ転がるプチトマトが中々摘めない。けだるげな私の様子に、芙美と奈々香は顔を見合わせていた。
奈々香
奈々香
寝不足? 授業中もよくウトウトしてるし
清見ヒロ子
清見ヒロ子
ちょっとね
何がちょっとなのか返事になっていない返事をして、私は黙々とお弁当を食べた。

原因は、スパイダーウェブだ。

登録して今日でちょうど一週間。見よう見まねで動画を投稿して、視聴回数はなんと十三回。うち、コメントは1つ。内容は『ブス』だった。

おいぶっころすぞ、ユーザー名『ポポロン』。

身バレを懸念して、スパイダー活動はほぼスッピンでいくことにした。高校では盛りに盛った化粧で隠しているが、すっぴんの私はソバカスにつり目だ。中学時代はこれに分厚い眼鏡をかけ、常に俯いていた。私の素顔を知る人間は、家族以外にいない。

愛くないのは自分でもよく分かってはいるが、ポポロン、貴様に言われる筋合いはないんだよ。

それにしてもだ、視聴回数はどうやったら増えるんだ。ユータンにできて私にできないなんて世の中間違っていないか。私も電車を追いかけたらいいのか。



もしかしたら動画のタイトルがいけなかったのかもしれない。『ボンビーあつまれ! 節約レシピ』ではインパクトが薄かったか。それとも料理というジャンルが悪かったのだろうか。スパイダーウェブにはすでに有名料理動画が多数あったが、どれもオシャレな感じで似たことをやっても駄目だと思った。だったら間逆の、貧乏臭い料理ならどうだ。これを考え付いたとき、私は自分を天才だと思ったね。結果は惨敗だったけど。

悶々と考え込んでいる間に芙美と奈々香はお弁当を食べ終わり、コンビニスイーツを食べ始めていた。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
ねえ、二人はなんでユータンが好きなの?
格好いいだけで年収一億円になれるんなら、整形でもしてやろうか。黒い考えが胸に渦巻くが、整形するお金もないことに気がついて落ち込んだ。
芙美
芙美
なんで好きかって言われたら、なんでだろ?
奈々香
奈々香
顔だけで言ったらアイドルにもっと格好いいのいっぱいいるしねー
わ、割とドライだな。

スイーツほど甘くない言葉を吐き出しながら、二人はさらに言った。
芙美
芙美
でもアイドルに比べたらずっと近いじゃん。親近感持てるし
奈々香
奈々香
そうそう、アイドルなんてぶっちゃけ住んでる世界違うもんね。でもユータンって同じ世界にいる感じがするのよ。手が届くアイドルってやつ?
親近感、手が届く。プチトマトを箸で摘まみながら、心のメモに書き込む。
芙美
芙美
それに、好きなことやって生きてる人間って、見てて楽しいじゃん
奈々香
奈々香
芸能人だと裏がありそうって思うけど、"スパイダー"ってまんまっていうか、素でやってる感じがするよね
本当の、自分。

プチトマトが、まるで逃げるように箸から飛び出した。床を転がって誰かの足に当たる。足の持ち主は大神だった。
大神直
大神直
落ちたよ
清見ヒロ子
清見ヒロ子
あ、うん、あげる
自分でもかなり適当なことを言ったと思った。
大神直
大神直
えっ、じゃあ大事にする
植草
植草
待て、大事にするな
一緒にお昼ご飯を食べていた植草がツッコミを入れた。まっとうな意見だ。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
ごめん、捨てとくから返して
落としたプチトマトはあとでゴミ箱に入れておくことにする。私は残りのお弁当をゆっくりと食べ始めた。
大神直
大神直
清見さん、なんか最近元気ないね
通路を挟んで隣に座る大神が話しかけてくる。口を動かしながら、声は出さずに首を傾げる。この仕草をすると、男の子は大抵黙ってくれる。

けれど大神は違った。
大神直
大神直
よかったら放課後、カラオケとか行かない?
思わぬ申し出に、食べる手を止めた。十分に噛んでいないおかずを飲み込んでしまったので、考える時間も稼げない。正直言えば、行きたくなかった。
大神直
大神直
大声出したらストレス発散できるし。ね、行こう。俺が奢る
芙美
芙美
ありがとう大神。じゃあ私、予約しとくね
植草
植草
俺も行きたい。六人で頼む
大神直
大神直
お前らにも奢るとは言ってないんだけど
あっという間に放課後の予定が埋まってしまった。でも奢りだから、いいか。

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