第14話

夢枕に立たれたい-5
911
2018/09/27 07:16
日付をまたいだばかりの、深夜零時過ぎ。

目の前で、親子が固く抱き合っていた。

ていうかね、あずさちゃん、お姉ちゃんそろそろ限界なんだけど。夢枕(ゆめまくら)ってかなり体力使うんだね、私知らなかった。

集中力が切れる前に、あずさが両親から離れる。待ってと伸ばされる手を両手で握った。

だいすき。たった四文字の愛情を伝えて、あずさは消えた。もう駄目、もう無理。私の体力も底をついた。

深夜の住宅街の真ん中で、四つん這いになってぜえぜえ言っている不審者は私です。全力疾走したあとに似ている。乾いた喉が気持ち悪くて、オエッ、とえずいた。
あずさ
あずさ
ヒロ子ちゃん、大丈夫?
清見ヒロ子
清見ヒロ子
大丈ぶいぶい
あずさ
あずさ
死にそうだよ。一緒に逝く?
清見ヒロ子
清見ヒロ子
怖いこと言わないでよ
両親との別れをしてきたあずさが、ジョークジョークと言った。最初の仕返しとはこやつ、やるな。

地面に座りなおすと、目の前にあずさが立った。どうやら出発の時間らしい。
あずさ
あずさ
会わせてくれてありがとう
清見ヒロ子
清見ヒロ子
いや、こっちこそありがとうだよ。お陰で今後の方向性が決まった
あずさ
あずさ
よく分かんないけど、どういたしまして
憂いの消えた笑顔を見ていると、やってよかったと思う。報われたと思う。けれど。
いい、ヒロちゃん。正面から向き合って、救ってあげようなんて思っちゃ駄目よ
死んだ人間に、責任なんか取らなくていいの。もうこの世にいない、存在しないものを、まるで生きているかのように思うなんて母さん許さないわ。だから正面から向き合って、救ってあげようなんて思っちゃいけない。分かった、約束よ。

瞬き一回。

あずさは消え、静かな住宅街に私はひとり座り込んでいた。

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