日付をまたいだばかりの、深夜零時過ぎ。
目の前で、親子が固く抱き合っていた。
ていうかね、あずさちゃん、お姉ちゃんそろそろ限界なんだけど。夢枕(ゆめまくら)ってかなり体力使うんだね、私知らなかった。
集中力が切れる前に、あずさが両親から離れる。待ってと伸ばされる手を両手で握った。
だいすき。たった四文字の愛情を伝えて、あずさは消えた。もう駄目、もう無理。私の体力も底をついた。
深夜の住宅街の真ん中で、四つん這いになってぜえぜえ言っている不審者は私です。全力疾走したあとに似ている。乾いた喉が気持ち悪くて、オエッ、とえずいた。
両親との別れをしてきたあずさが、ジョークジョークと言った。最初の仕返しとはこやつ、やるな。
地面に座りなおすと、目の前にあずさが立った。どうやら出発の時間らしい。
憂いの消えた笑顔を見ていると、やってよかったと思う。報われたと思う。けれど。
死んだ人間に、責任なんか取らなくていいの。もうこの世にいない、存在しないものを、まるで生きているかのように思うなんて母さん許さないわ。だから正面から向き合って、救ってあげようなんて思っちゃいけない。分かった、約束よ。
瞬き一回。
あずさは消え、静かな住宅街に私はひとり座り込んでいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。