第26話

“恋”の呪い-2
731
2018/10/11 02:42
大神を撃退した翌日、教室に入ると真っ先にヤツと目が合った。

昨日の今日だ、さぞ気まずかろう。だが私は嫌味なほど微笑んでやった。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
おはよう、大神君
向こうは何か言いたげだったが、挨拶どころか一切喋らない。芙美と奈々香に声をかけて、自分の席につく。隣の席の宇野は、"スパイダー・シュウ"のゲーム実況の話題からなぜか元気がなかった。挨拶の声が小さいぞ。
宇野瑞樹
宇野瑞樹
宇野君、テスト勉強やってる?
清見ヒロ子
清見ヒロ子
あ、あんまり
清見ヒロ子
清見ヒロ子
もう、そう言ってやってるタイプでしょ? 数学の宿題見せて
前後の脈絡(みゃくらく)がバラバラだったが、宇野は大人しく数学のノートを出して見せてくれた。宇野、私はお前が心配だよ。私以外にほいほい勉強を教えちゃ駄目だからな。

一心不乱に書き写す私を、宇野は黙って見守っていた。ときどきどうしてこの答えになるのか訊いたら、分かりやすく教えてもくれた。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
できた! 宇野君、ありがとう
宇野瑞樹
宇野瑞樹
ど、どういたしまして
清見ヒロ子
清見ヒロ子
宇野君が隣でよかった
利己的な発言でさえ、宇野は嬉しそうだった。耳まで真っ赤にして、こいつ絶対私のこと好きだろと思った。昨日までは。



大神の奇襲は、私に過信という心を捨てさせた。宇野のあからさまな態度でさえもう信じられなくなっている。好かれていると思っていた男子に罵られるという体験は、思った以上に私にトラウマを刻み付けていた。
宇野瑞樹
宇野瑞樹
ぼ、僕も、清見さんが隣でよかった
赤く染まった耳が、私に勘違いをさせようとする。馬鹿だなあと思った。もちろん私が、だけど。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
よかったって、どこが? 私、宇野君のことめちゃくちゃ利用してるよ
ヤダうれし〜と猫を被った反応をしてやろうと思ったが、やめた。宇野という男は騙すにはあまりにも純粋すぎる。なけなしの良心が疼いて、本音をちらり。

でも宇野は、眩しそうに目を細めて言った。
宇野瑞樹
宇野瑞樹
それでもいいよ
言葉が出なかった。むしろ、いや、なんだろう私、けっこう弱っているのかもしれない。大神のせいだ。ちょっとだけ、嬉しかったなんて。

いつもの適当な返しができなくて困ってしまった。なんとかできたのは、自分でも分かるくらい下手くそな愛想笑い。

そのとき、目が合った。隣に座る宇野のずっと後ろ、窓際に立つ大神と。

怖い顔で、こっちを見ていた。

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