テンとヤンヤンはもう誰も住んでいないような路地裏にいた
二人も、同じ組織出身なので復讐対象は一緒なのだ。
逃げ場に裏路地を選んだターゲットは不運だ。
裏路地は彼ら二人が最も得意とする場所なのに。
路地特有の細く、障害物の多い入り組んだ土地は彼ら二人の独壇場
しなやかで素早い動きをするテンは猫
空を跳躍し、力強く獲物を刈り取るヤンヤンは烏
猫と烏は、青や赤に錆びた屋根の上を飛ぶように歩いている
「リウ君」とはヤンヤンのもう一つの人格
彼はずっと、ヤンヤンの酷い奴隷生活を耐えるための拠り所となって
今でもヤンヤンを守るためにヤンヤンの中に住み続けている
嫉妬心が強いのが玉に瑕だ。
そう言いっていると男の背中が見えてくる
そう言うと二人の顔が少し暗くなる
今までされてきたことでも思い出してるんだろうか
『やるよね』
二人同時にそう言って爆笑する
ついに、二人は復讐対象の真上に来る
テンがハンドシグナルを出すと、ヤンヤンはそれに頷き
二人は瞬く間に男を挟み撃ちにした
そう言ってテンは鋭い眼光でターゲットを睨む
相手を見下すように睨んだその目は殺意に満ちているが、相手を全く人間と思っていないような限りなく冷たい冷酷さがあった
その瞳に怖気付いて、男が後ろを振り返ると
同じようにしてヤンヤンが立っていた
ヤンヤンはテンとは対照的で
硬く握りしめた拳はブルブルと震えていて、あまりに強く握りすぎて
爪が食い込んで血が出ていて、今にも男を八つ裂きにしそうだった
鋭く睨んだ目は飢えたカラスのような三白眼で
その目には様々な感情が混ざった涙の膜が薄ら張られていた
テンがそう言った瞬間、ヤンヤンは金切り声に近い叫び声を上げて
男に飛びかかった
そこからは知っての通り、だが
威神の仕事の時のように暴力を与えることに対して快楽に浸ることも、悪戯っぽい余裕もなく
ただひたすら悲鳴と、涙を流しながら感情のままに殴って、蹴ってを繰り返していた
男が藁人形みたいに軽々と、殴ればその方向に倒れ、蹴ればいとも簡単に吹き飛んだ
これは男が軽いわけではない。むしろ男は慎重ならルーカス並み、横幅はラグビー選手ぐらいありそうながっしりした体格
そんな男がこれほど淘汰されるなんて、ヤンヤンの勢いがどれほどまで強いものかよく分かるだろう
やがて、そんな本気の攻撃を続けたヤンヤンは地面にへたり込む
テンは彼の背中を落ち着かせるように、
一回だけぽんと叩くと
全身血だらけで倒れている男に向き合う
そこからは本当に酷いものだった
テンはクン、ウィンウィンとともに過激な拷問に携わっていた拷問のプロ
確実に痛い、相手が絶対にやられたくないことを知り尽くしている
これには思わずヤンヤンも目を背ける程だった
路地裏が静かになった頃
つまり男がこときれた時
男の死体は、元の形状とは見る影もなかった
身体中の血が全部出たんじゃないかと言うくらいの、洪水みたいな血溜まり
体はバラバラ
内臓は引き摺り出され
目玉はついてなかった
でも流石はテン、プロの技術と言うべきか.......
男はこの形状になるまでずっと生きていた
テンは、少しの間その惨状をボーッと見つめていたがやがてハッと我に帰った
肉体は同じヤンヤンのはずなのに
立ち振る舞いや喋り方、それにまばたきの回数や声の出し方まで違うので本当に別人に見えてくる
いや、と言うか別人なんだ
するとテンはリウにつかみかかって
頬を大きく膨らませて言った
何を隠そう、リウは一度嫉妬心からテンの首を絞めて気絶させたことがあるのだ
リウは罰が悪そうに下を向きながら謝る
そのセリフに意外だったのか、リウはびっくりしたように顔を上げたが
少し微笑んだ
その笑顔は、ヤンヤンに似て少し悪戯っぽくて
でもリウらしいツンとした目つきが込められていて、これはこれで可愛らしかった
そう言って、リウが一瞬ふらついたと思ったら、次に目を開けた瞬間には元のヤンヤンの目つきに戻っていた
そう言いながら、2人は帰路へ向かう
2人は細い路地を歩く
2人が路地から抜ける時、
血の匂いがするのはお決まりだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!