第74話

カムフラージュ
6,002
2021/04/03 13:23








取り纏めた資料を片手に、僕はチョンロを探していた




どこにいるんだろう?

こんなに見かけないことなんて珍しいな













会議中なのかな…

だとしたら野暮に電話は出来ない









と、思いながらフラフラアジトをさ迷っていたら電話がなった

クンヒョンからだ












(なまえ)
あなた
《もしもし
クン
クン
《あなた?今すぐ第3休憩室に来てくれないか
(なまえ)
あなた
《はい、分かりました



僕がそう返事をすると、電話が切れた




なんだか落ち着きがなさそうな声だったけど何かあったのか?





僕は少し早足で休憩室に向かう




















































休憩室に入った瞬間、ソファに項垂れて座るチョンロが目に飛び込んできた



膝に肘を乗せてその手で顔を隠して下を向いている















その横にはクンヒョンが背中を撫でながら座っていて、
他の「夢」のメンバーが心配そうに見つめている
(なまえ)
あなた
な、チョンロ… 

どうした?何があった??








チョンロは答えない

するとクンヒョンが僕に向かって言った








クン
クン
あなた…チョンロのルーツ、調べて貰えないか…?












僕が理由を尋ねる、


そしてその返答に僕は絶句するしか無かった







































〈チョンロside〉
















忘れてた

















忘れてたんだ


















「忘れていることを忘れていたんだ」























''人身売買を斡旋しているSWA運送会社は、僕の一族が経営している''

なんてこと











こんな馬鹿な話があるだろうか?

































さっき、SWAの理事長の顔写真を見たことをキッカケに記憶が掘り出された

















「記憶喪失は強いストレスから自分を守る為の防衛本能」










僕の記憶喪失は実に局所的だった










僕が忘れていたのは僕の家族がどんな身分でどんなことをしていたか

という限られた狭い範囲での喪失だ














ショウタロウのように日常に支障が出るレベルでは全く無かったので、




記憶を失っていることにさえ気づけなかった


















どうして人身売買に遭ったのか思い出せないことは自覚症状があったけど、


それは強いストレスのせいで、被害者のかなりの割合で症状が出るから気に留めていなかった








が、そこにこんな深く重要な秘密が眠っていたなんて知らなかった




















僕は中国の金持ちの家の息子として産まれた





そう、SWA運送会社の理事長の息子として。











当時の僕は、このまま両親の言う通り勉強して将来は会社を継ぐのだろうと思っていた


僕の両親は過保護だったが優しい人達だ












思っていたのに。












幼いある日、僕は父が経営している会社の暴挙を知った




父が人身売買、違法薬物や武器の取引に関与しているということに
















その時の僕は甘かった



優しい両親は息子である僕がこのことを諭せば自分の罪を認めて、出頭するなり何なりすると思っていたのだ






















が、その想像は当たり前のように違った











父親は優しくなかった。


冷酷で、私欲しか考えない人間







僕にむけていたあの笑顔は、単なるビジネススマイルだったのだろう







「自分の子供に地位を脅かされるから消した、殺した」


ヨーロッパ神話でよく聞くような話が僕の身に起こった










僕を人身売買に出したのは父親だった。
























暗い場所に連れ去られた僕は必死に父と母の名前を叫んだ









「助けは来ないよ。だって、君を売ったのは君の両親なんだからさ」








業者の男のその一言は






優しい両親の虚像を信じていた幼い僕の心を殺すには十分すぎた


































これが事の顛末、一連の流れ。















何がなんだか分かるが、分からない








どうすればいいか分かるが、分からない















仲間が心配して呼びかける言葉が理解はできるが、右から左に流れていく感覚がする




















ただ、何かに縋りたくって






今だけは何もかも忘れたくって










今はクンヒョンの温もりで、得体の知れない暗い感情を中和させるしかなかった

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