第198話

From Home
7,201
2021/08/22 15:40





月日が経つ


















あの晩餐の夜から約半年が経った



















体の傷は残るものの、すっかり癒えて
やっと表社会にも馴染めるようになってきた。











あの晩餐の一週間後に、一番乗りでルーカスがNCTに戻ってきた。







家族に、

「大切な人を残してきた」
と言ったら
「そばにいてやれ」

と言われたそうだ




そこから毎日ルーカスはあなたのそばで1日の大半を過ごしながら
こっちで生活するために、苦手な勉強に手をつけ始めた











他のメンバーもそれに続くように続々と帰ってきて
一ヶ月前にマークが帰ってきたので、NCTの幹部は再び、全員揃うようになった


帰ってきた理由はやっぱりメンバーと一緒にいたい気持ちと

母国語を壊滅的に失った、だとか もう母国に帰る場所がない とか、
青年期で母国で過ごす多くの時間を失ったために社会に馴染めそうにない 

と言ったもので理由は様々、人それぞれだったが



でも決まってメンバーは照れながら「やっぱり寂しいんだ」「みんなと一緒にいたい」
と口を揃えて言った

















そんな彼らにテヨンは「お帰りなさい」と優しく言った




























今は冬。まだ厳しい寒さが残る2月

メンバーはNCTの本部をそのまま居住地として使い
そこで仲間と共に生活している。

本部には壁にめり込んだ銃痕や割れたレンガ
爆薬で黒くなった壁など、凄惨な戦いの後が残っているが
それはわざと残しておいている










それは今まで、構成員たちが命をかけて戦ってきた証だから。

















裏に行けば大きな庭がある

そこではテイルが綺麗に花を育てていて、その真ん中には今まで戦死した構成員たちの名前が刻まれた石碑と
引き取る家族がいなかった構成員の墓がある




その石碑の造形は硬い石とは思えないくらい滑らかに、天に向かって伸びていくような形で
先が美しく尖っている




ここで、彼らは永遠に眠り
生きている仲間たちを静かに見守っている。
























一方その生きているメンバーだ


彼らは皆、この春から社会復帰できるように資格を取ったり勉強をしたりして忙しそうだ















あれから「夢」をはじめとする2000年生まれまでのメンバーは
相変わらず勉強会を続け

今年に行われる大学受験に挑むつもりだ




あれだけ勉強会に行かなかったヤンヤンも、クンに尻を叩かれながら渋々勉強会に参加している










ロンジュンとチソンは韓国の中でも名門であり
あなたが在学する西京ソウル大学を受験する

ロンジュンは哲学科で、チソンは心理学に進みたいそうだ







ソンチャンは決まってのとおり、ドヨンの母校の名門大学の医学部を受験する予定で
そのために苦手な文系科目を必死に勉強している

ショウタロウは体育大学。踊りとか、体を動かすことに興味があるらしく
今でも受験勉強と称してテンと体を動かしたりしているが側から見たら遊んでいるようにしか見えない





ジェノは有名私立の文学部を目指していて
ジェミンもそこについてきたいそうだが、このままじゃ浪人する。








チョンロは外国語大学の中国語科に進んで、母国の学問を一からやり直すつもりらしいし

ヤンヤンは好きなゴーカートに携わるため専門学校を受験する












そしてヘチャンはと言うと、韓国一の学力を誇り、最難関校とされている
ソウル大学の法学部を受験する





最初は最悪な授業態度だったが進路を決めると一気に勉強を進め
前回の模試では全て満点で総合で1位をとった

もちろんのことA判定だ
















これに関してはもう教師もメンバーも文句なかった













なんにせよ、
彼らはこれでやっと自分の人生をはじめることができる。



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



















テイル
テイル
おはようあなた




早朝



テイルは、眠ったままのあなたに話しかける












あなたはあれからずっと目を覚さない。

いわゆる植物状態で

まるで眠っているだけで
今にも起きそうな綺麗な寝顔だけをそのままに、意識が戻ることはない













そばに置かれた花瓶の花は
紫陽花、向日葵、芙蓉ふよう、コスモス、紫苑、薔薇、ダリア、サザンカ....と姿を変えていった







テイルの手に握られているのは白い花びらと黄色の花弁が可愛らしい
ノースポールの花が。

テイルが持ってくる花は全て毎朝テイルが水をやっている庭から庭から取ってきたものか
散歩中に摘んできたものだ






その逆の手にはギターが握られている

















テイルは花を丁寧に替えると

近くにあった椅子に座り、ギターを持つ















テイル
テイル
あなたさ、僕の歌喜んで聴いてくれたよね
だから僕少し練習したの。

一番にあなたに聴かせたくて




少し照れながらそう言うと
弦を撫でるように弾く








ギターの穏やかな音色に
テイルがの優しくも強い歌声が重なる































『昨日のことのように覚えているよ 
寂しくて苦しかったあの時
   慣れなかった空気も、怖がっていた震えも







今は分かる 








幼かった心まで全て 思い出になるようにしてくれた君たち

みんなのおかげで強く思えたんだ

お互いを信じられた時 この場所が僕らの当たり前になる









僕たちが明るく輝く時 








僕はこの町で生きている僕自身を歌う
   照明のしたでお互いを見つめ会えば
    僕もいつの間にか笑って、全部忘れられる







僕らは一人じゃないから










僕の暖かい家になってくれた君たち


昨日と今の僕 そして訪れる明日の僕たち






It all start from home皆この家から始まる


















最後の音まで丁寧に、力強く
思いを込めて歌う




今までの想いが詰まって、少し涙がにじむ










この歌詞は今の彼らを歌っている































テイル
テイル
ふふ、笑ってるの?






変わらないはずのあなたの表情だが
どこか朗らかで、笑ってるように見えた









「また聴かせてあげるね」






そう言うとギターを置いてあなたの頭を撫でる



テイル
テイル
かわいいなあ







あなたは情報部部長になるまで、ジェヒョンのもとで教えを乞うと同時に
テイルの直属の部下として働いていた

一時期は補佐をしていた時もある


あなたの大学受験の時は時々勉強も教えてやってた












だからその分、テイルもあなたへの思い入れが強いのだ















テイル
テイル
また来るね

あ、今日の夜ジェヒョンが来るって言ってたよ
楽しみだね







テイルはそう言うとカーテンの外へ出る


医務室から出ようと扉に手をかけるよりも前に 扉が開いた








ルーカスが部屋に入ってきたのだ















テイル
テイル
やほ
ルーカス
ルーカス
ヒョン!
ルーカス
ルーカス
今日もお花くれたんですか?
テイル
テイル
うん、今日はノースポールだよ
ルーカス
ルーカス
のーすぽーる?
テイル
テイル
かわいい花だよ

あ、今日はあなた気分良さそうだったよ
ルーカス
ルーカス
本当ですか!
ヒョンの歌聞いたからだと思いますよ!




ルーカスはテイルの持っているギターを見つめながらキラキラとした瞳を向けて言う



テイルは少し恥ずかしくなって「それじゃ」と言うと
足早に自分の部屋に戻った















ルーカスはそれと入れ違うようにカーテンの中に進んだ






































《ルーカスside》













透明な分厚いカーテンを開けると
中には綺麗なあなたが眠っている






その脇には白と黄色の可憐な花。

もう名前は忘れちゃったけど、確かにかわいい
見ていて和む

















もう、あなたが眠ってからは半年以上が経った
一般的には半年を境に目覚めることはなくなる


そう告げられて時はやっぱり悲しくて悔しくて、寂しかったけど
今はだんだん気持ちが落ち着いてきて
その事実も受け止められそうだった








あなたが息をしていて、横にいてくれるだけで十分なんだ









でも願わくば、もう一度笑った顔が見たい




























サラサラの髪が生える頭を優しく撫でる



ここ半年、すっかり髪を切っていないから元から長めだったあなたの髪は伸びて
今は鎖骨あたりまで伸びている




意識はなくても髪は伸びる

この事実が視覚的に、あなたが生きてると言うことを感じさせてくれて切ろうにも切れなかった













ルーカス
ルーカス
あなたは切りたい?でもこのままでも似合うんだけどなあ





鬱陶しいから切る!って言いそうだな







でも本当に似合うと思う
華奢な体に、普段長袖ばかり着てるせいで今外に降ってる雪と同じくらいに白い肌に

長い睫毛につんとした目元に綺麗な高い鼻






女の子みたいに綺麗.........って言ったら怒るんだよなあ





























「今度切ってあげるよ」









そう言うといつもみたいにいろんなことを喋る
今は朝だから、今日はこんなことしたいな とか 何が食べたい とか
他愛もない話
















あなたの隣にある小さな机

これはこの前ドヨンヒョンがくれたもの。俺がここで勉強できるようにって






だからここで勉強するのが俺の日課

とりあえず今はマークやいろんな人に手伝ってもらいながら車と、大型二輪の免許を取ろうとしてる



















ああ、本当に勉強嫌いだ

いやだよう、やりたくない......





本当は長時間座っていることですら苦痛なんだ
あなたが寝ている環境でやってこそ、ようやく机に座れている












しかも教科書が韓国語










喋るのにもあんまりできないのにこれで免許を取ろう!なんて無茶な話なんだけど
あなたがいるからなんとか頑張れる



まあマジでやりたくないことには変わりないんだけど























あー.....なんだか眠い











あなたの暖かい手を握る

本当に眠いな...........










































ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










































ルーカス
ルーカス
ん.....





どうやら寝てしまっていたみたいで
手に感覚を感じて目が覚めた








手の感覚の正体


















俺の手の下に重ねられてるあなたの手だった。






綺麗な白くて真っ直ぐな指




















ずっと握って眠ってしまっていたせいで、
あなたの俺の手は互いの体温で暑くなってしまっていた




ルーカス
ルーカス
ごめんごめん
























そう言いながらあなたの手を離そうとした瞬間


ふと思った





































どうしてずっと握っていた手に違和感を感じたんだろう
















暑かったから?























いやそうじゃない

そうじゃないとはっきり分かる






















じゃあなぜ?






































心臓が跳ねる

呼吸が浅くなる

































もしかして、もしかして































ルーカス
ルーカス
あなた.....?










震える声でそう言うと
























































ゆっくり





















































あなたが目を開いた。

青と黒の綺麗な目





















































そこからはもう分かんない









































夢中で名前を呼び












抱きしめて




























そしたらあなたが微かに微笑むものだから

涙が止まらなくなった




































あなたはそんな俺をゆっくり受け止めたままでいてくれた






























そして、ゆっくりと口を開いた











































































(なまえ)
あなた
ルーカス.......
(なまえ)
あなた
愛してるよ

プリ小説オーディオドラマ