第76話

お兄ちゃん
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2021/04/06 11:39










テイルヒョンの仕事部屋




ヒョンは幹部最年長の頼れるお兄ちゃん。

組織の情報が最も集結する内部隊の隊長で、テヨンヒョンを始め幹部の相談役





彼の仕事部屋は壁という壁が本棚で

机の上にはきちんとファイリングされた資料が山積み

ホワイトボードには彼が走り書きした文字がびっしりと書かれている








テイルヒョンは資料を読んではテキパキと指示を出す




幹部の情報やメンタル面、構成員のスペック、公文書や機密資料や末端の細かな情報まで彼は把握しマネージメントしている






そしてその情報の使い所や配置も彼を中心に配置される
















彼を失えば組織の半分以上がいつも通りに機能しなくなるだろう














一件ぽやんとふわふわとしているが、めちゃくちゃ凄い人なのだ









(なまえ)
あなた
ヒョン、それなんていう歌ですか?









ヒョンは資料を眺めながら鼻歌を奏でていた






その鼻歌が本当に上手で、思わず聴き惚れてしまっていたのだ











テイル
テイル
え、僕今歌ってた?
(なまえ)
あなた
ええ。すごく上手でしたよ






無意識の鼻歌のレベルが高すぎる








この人は本当に音楽が上手だ





さっき言ったように資料や本だらけの殺風景な部屋だが、

その片隅にちょこんとギターが置かれているのだ








仕事で疲れた時によくそれで弾き語ったりしているが、僕が部屋に入った瞬間恥ずかしいそうに辞めてしまうのであんまり聴いたことは無い











聴きたい時は、部屋から漏れる音を聴くしかない

なのでよく幹部はテイルヒョンの部屋の前に張り付いていることがある。








歌だけじゃなく、楽器もすごく上手。




前、ラウンジに置いてあるグランドピアノをサラッと弾いていてかっこよかった








………なんかヒョンの歌聴きたくなってきた










(なまえ)
あなた
…なんか1曲弾き語ってくださいよ
テイル
テイル
いやだ
(なまえ)
あなた
なんでですかぁ
テイル
テイル
恥ずかしい
(なまえ)
あなた
恥ずかしくなんかないですよ、ヒョンの曲聴きたいです
テイル
テイル
え〜〜〜〜







それでも渋るヒョンに



僕は作業している手を止めると机に突っ伏す







「歌ってくれないと仕事しないぞ」



という無言の抵抗をしてみる













それが伝わったのか、ヒョンは

「しょうがないなぁ…」と言いながらギターを手に取る













弦を優しく弾く






落ち着いた、優しいギター音色に
ヒョンの穏やかで透き通った、でも力強い歌声が続く





ムラのない綺麗な高音に包み込むような低音














何より歌っているヒョンの目が穏やかな笑みを湛えていて、その雰囲気にとても安心できた














曲が終わると、自然と拍手が零れた



ヒョンは恥ずかしそうにギターを元の場所に戻す



(なまえ)
あなた
本当に素敵でしたよ、ヒョン
テイル
テイル
…ありがと






ヒョンは照れを隠すようにいそいそと資料に目線を戻す














短かったが、素敵な時間だったな















あまり自分のことを喋らないヒョンの

素顔が見れた気がして嬉しかった。




































〈テイルside〉


















「歌ってくれ」





と、あなたに無理難題を押し付けられている











別にいいけど恥ずかしいんだよ…



















そう思っているとあなたが机に突っ伏し始めた

















…どうやらストライキのつもりみたいだ










仕方ないので歌ってやろう。








ギターを手に持って座ると

普段は仏頂面のあなたの顔が輝いた












…そんなに嬉しいの?








そんなキラキラした目でこっち見ないでくれ



































弦を弾く



















…………良い音だな









その音に合わせて自然と声が出る










歌い始めると恥ずかしいなんて感情はすっかり消えて、歌うことに夢中になる

















楽しい。





















音楽は、喋るのが苦手な僕の思いを代弁してくれるような気がする



生き物のようにその時の気持ちや環境によって音や聞こえ方が変わる














僕がマフィアに攫われたのは高校を卒業してすぐの春休み。





昔から音楽が好きだった僕は

名門と有名な音大に入学する予定だった












何もかもが奪われて、失って


残虐な目に遭わされて


手足を縛られていて囚われていても




















音楽だけは声が出る限り僕の傍にいた








灰色の、冷たく暗い壁を無気力に眺めながら呟くようにか細く歌ったものだ。






音楽は生涯、僕の1番の友達だ




























マフィアの中に最悪な構成員がいて、

僕が歌うことが大好きということを知ったらしく






僕の絶望した顔を見たいが為に

喉を潰そうとしてきた









物凄い力で首を絞められ、


声が出なくなるならこのまま死んでしまいたい






そう思った瞬間にテヨン達が僕を助けてくれた
















音楽は友達だといったが、



僕の家族はこの組織だ












今、目の前で僕の歌をうっとり聴いているこの子も僕の可愛い弟。




















どこまでも愛らしくて愛おしい











この子達の為ならなんでも出来る




















曲が終わると、あなたは穏やかな顔で拍手をくれる
















恥ずかしくなって、資料を見るふりをして顔を隠す













…その顔が見れるんだったら何回でも歌ってあげるよ









そんなこと恥ずかしくて言えないけどね














(なまえ)
あなた
ヒョン
テイル
テイル
なあに
(なまえ)
あなた
…お腹空きました
テイル
テイル
…作って欲しいの?
(なまえ)
あなた
はい…笑












甘えん坊め














あなたはよく僕に甘えてくる





…ちょっと嬉しいな





テイル
テイル
何が食べたい?
(なまえ)
あなた
え〜、えっと〜〜





そう言ってあなたは真剣に悩み始めた














可愛い奴め



















その可愛さに免じて、お兄ちゃんがなんでも作ってあげる

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