チソンside
僕らは今訓練所にいる
僕はサポートが仕事だから、色んな能力を平均値以上にこなしたい
だからこうやって色んなヒョン達にたくさんのことを教えてもらうのだ
今はジェミニヒョンから刃物相手の時の立ち回りを教わっている
次はジェノヒョンとトレーニングを一緒にさせてもらおう
そう言いながらジェミニヒョンの前に立つジェノヒョン
僕はヒョンのスポーツドリンクを勝手に飲みながら観戦する
ジェノヒョンの逞しい体つきに
ジェミニヒョンの軽やかな身のこなし
彼らが着ているタンクトップがチラっとめくれると、沢山の古傷が見える
あれの大半は、僕のものになるはずだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
6年前 僕は攫われた
家族と来ていた旅行先の梨泰院で
少し家族から離れた隙に。
怖くて、怖くて怖くてたまらなかった
2人のヒョンは、僕が連れてこられた場所に居た
僕らは「奴隷」として買われたようで
毎日酷い扱いを受けるようだ
ヒョン達と出会ったのはそことまた別の場所
奴隷の中でも特に飼い主のお気に入りを集めた牢の中で。
突き飛ばされるように、乱雑に牢に押し込まれた
ガシャンと手足にまとわりついた鎖が大袈裟に音を立てた
ここはどこ…?
いやだ、怖い、怖い怖い……
絞り出すような声で泣いていると
向こう側の闇の中から、鎖を擦る音が聞こえてきた
こっちに近づいてくる
僕は怖くなって牢の角まで後ずさりする
僕を攫った人達の仲間…?
また叩かれるのかな…
僕はギュッと目を瞑っていつ叩かれてもいいように身構える
が、いつまでたっても拳は飛んでこなかった
そっと目を開けると、目の前には僕と同じぐらいの歳の少年が2人
心配そうにこちらを見つめていた
「君も」
その言葉に僕はハッとした
僕達は君と一緒…
この人たちは、僕の味方なのかもしれない
僕の言葉に、2人は顔を見合わせると
悲しそうな表情になる
そして、銀髪の人の方が重そうに口を開く
喉がヒュッと音を立てたのが聞こえた
マフィア、誘拐…
ニュースで見たことがある
最近になって、行方不明者が増えていて
それは全部マフィアの人身売買のせいだって
恐ろしいな〜とは思っていたけど
まさか自分がそうなるなんて、夢にも思っていなかった
ぼろぼろと涙が溢れてくる
今まで体感したことの無い絶望と
これから起こることに受け身である事しか出来ず、恐怖することしか出来ない日々への苦痛に
僕は耐え切れそうになかった
すると2人は僕に近寄ると、僕を覆うようにそっと抱き締めてきた
ジャラ、ジャラと邪魔な鎖を不器用に避けながら僕を抱き締める
2人の温かいからだと、冷たい鎖の不気味な温度感が今でも忘れられない
そしてそのまま2人は囁く
そう言われると、僕は糸が切れたように泣いた
できる限り声を出さないように
その間ずっと、2人の少年は僕の体をさすったりとんとんと叩いたりしてくれていた
どのくらい時間が経ったのか、時計も窓も何も無いので分からないが
かなりの時間が経って、やっと僕は泣き止んだ
2人は依然、僕を包み込んだままだ
これが、僕とヒョンとの出会い
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。