〈テンside〉
ヤンヤンは多重人格だってことは分かっていた
最初に会った時から、僕には見えない人と話していた
ずっと独り言を呟くみたいに誰かと会話していた
ヤンヤンは「リウ君」がもう一人の自分だとは気づいてないみたい
ヤンヤンとリウ君のは2人でひとつの肉体にいる
ヤンヤンとリウ君が入れ替わる時は、決まってヤンヤンを守る時
だけど例外もあった
ヤンヤンの注目が他の人の誰かに、好意を抱いている時。
リウ君の嫉妬を買って体を乗っ取られるみたい
リウ君は嫉妬深い
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そうやって言った瞬間、ヤンヤンの様子がおかしくなった
また1人で話し始めたのだ
リウがそう言った瞬間、ヤンヤンの体がガクッと痙攣した
と思えば目がとてつもなく冷たく変わった
ヤンヤン、いや「リウ君」が
僕に馬乗りになり、首を締めてきた
息ができない
頭に血が溜まる感覚
そんなことを延々と聞かされ続ける
そんな声も、だんだん遠くなっていった
リウ君が首を絞める力は恐ろしく強かった
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オークションに出品されて、保護された時
あなたが僕らの手錠を外しに来てくれた
その時、何となくヤンヤンの雰囲気がおかしくなったのを感じた
手足の枷が邪魔で近づくことが出来なくて。
あなたがヤンヤンの手錠を外した瞬間
ヤンヤンがあなたの喉元に飛びかかった
全体重をかけて飛びかかられたあなたは後ろ向きに地面に叩きつけらた
頭を強くぶつけたようで、抵抗出来ないみたいだがそれでも尚ヤンヤン、いやリウ君は容赦なくあなたの首を潰す勢いで締める
その時、僕やほかのメンバーも止めようとしたが複雑に絡み合った鎖がそうはさせず
リウ君なんかに声が届くはずもなかった
でも、僕らは叫ぶしか無かった
あなたは驚いた表情をしたまま床に叩きつけられて
朦朧とした意識のまま動くことが出来ずに、ただボーッとリウを眺めていた
口からツーっと血が流れ
意識が途切れる間近に
何故だろうか
あなたの手がリウの頭を優しく撫でた
その時のあなたの顔は首を絞められているとは思えないほど穏やかで、慈愛に溢れていて、どこか申し訳なさそうだった
まるで「もっと早く助けてあげられなくてごめんね」
とでも言うように。
その表情と行動にたじろいだリウに一瞬ヤンヤンが垣間見えた気がして、僕は懸命に叫んだ
僕の声がトリガーとなって、ヤンヤンが体を奪い返した
そして自分がしてしまったこと、リウ君が自分だということに気づいたようで
痛々しい声で発狂すると
そのままあなたの上に折り重なるように倒れた
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〈ヤンヤンside〉
多分ここは、僕の夢の中
いや
頭の中、いや
現代医学でも定義できないような空間
僕とリウ君だけの空間
リウ君はその空間の真ん中に。
どこまでも続いていきそうなこの真っ白空間の、何故ここが真ん中なのか分からないけど
とにかく真ん中に三角座りをして肩を震わせていた
リウ君は涙でボロボロの顔をあげたと思いきやだんだんけたけたと笑いだした
ボロボロと涙を零す
そんなリウ君を抱きしめた
ギューッと、ギューッと
ありったけの愛と感謝を伝えたくて
僕のために負ってくれた傷を癒してあげたくて
リウ君が涙を流しながら幸せそうな笑顔になる
その涙は、不思議なことにふわふわと周りに浮いている
''秘密''
そう言うと僕らは両手を恋人繋ぎして向き合うと
おでこをトンと合わせる
白い光が下から、風のように僕達を吹き上げ
包み込んだ
…これでいい
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そう。僕らは2人で1人
本物か?なんてそんなものは愚問だ
答えは簡単
リウ君は僕を僕とする為の必要十分条件で
僕はリウ君をリウ君とする為の必要十分条件で
一生の、大切な大切な友達なのだ
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。