神威が出ていってから数ヶ月
心なしか母さんの体調が悪化していっている気がする
あるたな というものがない限り母さんは死ぬ
でも私はそれを見つけることすらできない
その自分を責める気持ちが鎖のように体に巻きついている
この気持ちから逃れるためには
この辛さを無くすためには
母さんから、、、家族から離れるしかないのだろう
母さんが辛そうにしている時にも自分のことしか考えられない私にまた腹がたった
ムクッ
草木も眠る丑三つ時
神楽も父さんも母さんもとっくに寝ている時間に目を覚ます
みんなが起きている時間に出ていったらきっと父さんも母さんも神楽もとめてくれるのだろう
でもそれではまた私はここに居てしまう
この辛さから逃れることはできなくなる
家族を悲しませることをしてまで
私は私のために生きるのだ
私は私のために生きると言っても今まで育ててくれた最愛の母から離れるのはやっぱり寂しい
何も言わないで貰っていくのだから泥棒と同じなのだろうけど
母さんの持ち物を一つ貰っていくことにした
たんすをあさりながら自分から家族を捨てて母の大事なものを持っていく自分は屑なのだと実感する
慌てて振り返る
そこにはベッドから上半身を起こした母さんがいた
怒ったような顔をしている
いつも優しい母の怒った顔を見て全身から汗が吹き出してくる
私が一言謝ると母はまた優しい顔に戻り
と私に手招きした
ちらりと母さんの方を見ると悲しそうな顔をしていた
ずっと会いにこないのは母さんも寂しいよ
と母さんは控えめに笑った
その数日後だった
母さんが亡くなったという知らせが届いたのは
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!