「あれ、今日のあなたなんかラフな格好だな」
「そうですね」
お休みなのでね。休みぐらいラフな格好でいさせて。
「あ、そういや俺も今日パーカー」
今日は買い物以外の予定がなかったあたしは家から近くのスーパーと言うこともあって
カジュアルの代名詞といっても最早過言ではないパーカーとデニムで買い物に出掛けたのだけれど
生憎と言うのか運がないと言うのか。
悲しい事にあたしの今のこの格好と隣人さんの格好が全く同じという不条理。
お揃いじゃんお揃い。
あたしの複雑な気持ちなんて知らずに嬉しそうに話すお隣さん。
なんか楽しそうだなこの人。
「なんで部屋入らないの?」
「あー…、いやなんというか鍵無くしたんです」
この人はころころ話が変わるなぁ
なんて事を思いつつあたしもあたしで彼の質問に答えていく。
「え、嘘だろ」
「だったらいいんですけどね」
「ぶはは、あなたってばおっちょこちょいだなー」
なんて目尻を下げながらけたけた笑われる始末。
なんだろう。
自分の不注意とは言えなんかこう大笑いされると非常に反応に困る。
「ん?このエコバッグなに?」
大笑いしてると思ったら今度は玄関の前に置いてあるエコバッグが気になったのかそれを指差し聞いてくる。
「ああ、さっきスーパー行ってたんですよ」
「え、あなた料理すんの」
「まぁ、人並みですけど」
「そうなの?じゃあ今度俺に飯作って」
「それは嫌だ」
「なんでそこだけ即答」
いやいや、当たり前でしょう。
そう心の中で思ったのは言うまでもない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!