「よし、じゃあ探すか」
「なんかもうほんとごめんなさい」
「だから謝やまんなくていいって」
そして結局あたしはお隣さんのお言葉に甘えて2人で鍵を探す事に。
あたし達は長い階段を下りて先ほど行ったスーパーまでてくてくと歩いて行く。
因みにさっき買った食品達は隣人さんの家に置かせてもらっている。
ああ、認めたくないけれどこの人にかなりの借りができてしまったな。
「なー、あなた」
「なんです」
いい年した大人二人がが同じ格好で地面を見つめて歩きながら会話をする光景って
周りから見たら相当不思議な光景なんじゃなかろうか。
なんて思いつつ聞こえてくるお隣さんの声に耳を傾ける。
「もし家の鍵俺が見つけたら頼み事があんだけど」
「変な事じゃないですよね」
「あは、どうかな」
「却下でお願いします」
「冗談だっつの」
「じゃあなんですか」
「俺の事さ、隣人じゃなくて名前で呼んでよ」
あと敬語も止めてくれると嬉しい、と付け足すようにポツリと一言。
「へ」
なんだ、そんな事か。
お隣さんの事だからまたとんでもない事言ってくるのかと思った。
「駄目?」
「じゃ、じゃあ鍵見つけてくれたらいいですよ」
そんな捨て犬みたいな顔をされたら嫌だなんて言えません。
「ほんと?」
「え、ええ」
そう言ってあまりにも嬉しそうに笑うもんだから不覚にもあたしの心臓がどきりと跳ねた。
「そしたらさっさと鍵見つけてあなたに飯作ってもらおー」
「おい、そこまで言ってないだろ」
なんだろう、この変な感じ。
あたしの中でお隣さんの存在が少し変わった気がした。
追伸。
結局鍵は財布の中にありました。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。